アーニョロ・ブロンヅィーノの後期絵画様式に関する研究接的な影響関係が指摘される軍記がまず挙げられるが、残念ながら作例は乏しい。より興味深いのは、『平家物語』から派生した、個別のエピソードや登場人物を主題とした文芸作品群である。謡曲や、幸若舞曲などの中世芸能には平家主題の作例が知られ、また、一般にお伽草子と呼ばれる室町短編小説の絵巻作例に、義経、弁慶、敦盛など『平家物語』の登場人物を扱った物語が非常に多い。これらの作例については、国文学、美術史において個別作品研究の蓄積がある。また、謡曲・幸若舞曲の絵画化については、国文学研究の立場から小林健二氏の一連の論攷があり、作品リストもすでに充実している(『描かれた能楽:芸能と絵画が織りなす文化史』、吉川弘文館、2019年ほか)。お伽草子作例についてもすでに『お伽草子事典』(徳田和夫編、東京堂出版、2002年)などに対象作品が網羅されており、これらの先行研究を参照しながら、主に室町時代に遡る作例を美術史の立場から検討したい。本研究では広義の中世平家絵の中で小画面作例に焦点をあてて検討するが、リスト化する対象作品は、江戸時代、17世紀までを視野に入れたい。そのことによって、主題や絵画表現の変遷をたどる作業が可能になると思われ、将来的には大画面絵画も含めて、『平家物語』の絵画を時系列に沿って、総括的に把握することを目標としたいと考える。研究者:東北大学大学院文学研究科博士後期本研究の目的は、ブロンヅィーノの後期絵画様式をカトリック改革および北イタリア美術との関連から再検討し、その絵画様式の形成要因を明らかにすることである。そしてこの目的に基づいて進められる本研究の意義は、研究史において支配的なヴァザーリ史観(規範としてのミケランジェロにすべての要素を収斂させる)からこの画家を解き放ち、より包括的で多様な歴史的文脈にブロンヅィーノを位置付けることにある。16世紀フィレンツェ絵画については、近年、ミケランジェロ以外の美術家の影響を再検討する研究が進められている。しかしその過程でブロンヅィーノに対する他の美術家からの影響は十分に考察されず、未だミケランジェロの追随者という側面が強調されている。しかし本研究では、彼の絵画、特に本研究で考察の中心に据える《キリ―97―瀬戸はるか
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