鹿島美術研究 年報第38号
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アンリ4世時代のフランス・タピスリー研究【学術的背景と構想】ことが期待される。研究者:東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程近年まで、第二次フォンテーヌブロー派は、第一次フォンテーヌブロー派の延長、またはその副次的存在であると捉えられる傾向があり、現存作品の乏しさからも、その先行研究は概して、概略的、あるいは断片的な記述にとどまっていた。しかしながら、2010年代以降、フランスでは第二次フォンテーヌブロー派の美術の再評価の機運が高まっている。具体的には、2010年に開催された2つ展覧会、すなわちルーヴル美術館の「トゥッサン・デュブルイユ」展※1とフォンテーヌブロー城の「フォンテーヌブローにおけるアンリ4世:栄華の時代」展※2、さらに2016年出版の研究書『アンリ4世:芸術と権力』※3等が昨今の注目すべき研究成果として挙げられる。だが、こうした最近の研究においても、アンリ4世時代のタピスリーに焦点を当てた研究はほとんどなく、現存素描や建築、肖像画などが議論の中心となっている。アンリ4世治下では数多くのタピスリーが制作されたが、その研究としては、欧州で開催された、いくつかのタピスリー展のカタログにおける、ごく限られた一部の作品の個別研究が断片的に存在しているのみである。そうした現状に鑑み、本研究では、当時、王室のために制作されたタピスリー連作を包括的に調査し、その全体像を捉えた上で、それぞれのモティーフを読み解きながら各作品の解釈を提示したい。さらに、同時代の政治的・社会的背景を踏まえながら、連作全体としてのメッセージや制作意図について考察を深めることを目標とする。※1: Dominique CORDELLIER, Toussaint Dubreuil, cat. exp. (Paris, cabinet des dessins, musée du ブルボン朝の創始者である国王アンリ4世は、フランスの歴史においてとりわけ重要な役割を果たした人物である。カトリックとユグノーの国内融和に努め、1598年にナントの勅令を発布したことは有名だが、加えて、彼は戦争で疲弊した国家の復興の―99―竹本芽依Louvre, 2010), Paris-Milan, 2010.temps de splendeur, cat. exp. (Château de Fontainebleau, 2010-2011), Paris, 2010.※2: Françoise BARBE, Marc BASCOU, Magali BÉLIME-DROGUET, Henri IV à Fontainebleau, un ※3:Colette NATIVEL (dir.), Henri IV : art et pouvoir, Tours-Rennes, 2016.【本研究の意義・価値】

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