③オーブリー・ビアズリーの受容に関する研究って解明される本研究の成果は、沈没船の積荷の内容から検証される美術品の制作地や、造形的、図像学的傾向に見られる蒐集家の嗜好といった微視的な分析と、美術市場を取り巻くローマ帝国の商業圏における物的、人的交流という大きな枠組みの双方から論じられる点で、より広い史学的展望を備えた将来性を持つ。研究者:栃木県立美術館研究員、成城大学大学院文学研究科博士課程後期大城茉里恵本研究の目的は、イギリスの挿絵画家オーブリー・ビアズリー(1872-1898)と彼の追随者について、資料的根拠が乏しいままに記述され整理されていないその系譜を、可能な限りの資料収集と様式分析とによって分類を行い、ビアズリー以降の挿絵画家を再評価することにある。ビアズリーの追随者とされる挿絵画家は、先行研究で指摘されるだけでも日本と西洋を含めて50名近くにのぼるが、線描による様式の類似や退廃的イメージの使用を理由に追随者とみなされる者も少なくない。これらの挿絵画家のうち、体系的な研究がなされている者は国内外でもごくわずかである。それは挿絵という分野が出版や広告などの商業に従事し、その数も膨大でありながら個人の蒐集家の所蔵と研究に依拠し、実態の調査が困難であるという状況を一因とする。本研究では、ビアズリーとその追随者を上述の方法で三段階に分類し、その影響関係のより強い者については系譜に明確に組み入れ、影響関係が断定できない者については、ビアズリーとは異なる文脈からの調査が可能であると位置づける。これによって、影響関係が明らかになった挿絵画家は今後の研究調査の可能性が開かれ、本調査は近代挿絵研究にとって意味を持つものとなる。また、このような影響関係を精査することはビアズリー自身の再評価にも結実する。これまでビアズリーは、例えば美術史家ケネス・クラークによればパウル・クレーやカンディンスキー、ピカソらに影響を及ぼしたとされるなど、20世紀のモダニズムと結びつけて評価をされてきた。その視点は、ビアズリーの代表作『サロメ』(1894)の平面的様式とテクストから自立するかのような場面設定といった要素を評価するもので、後年の『髪盗み』(1896)のような具体的な空間描写を伴う伝統的な形式の挿―19―
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