④小牧源太郎を中心とする京都の前衛画家に関する研究絵は相対的に低く評価してしまう。しかし、挿絵におけるビアズリー受容を見たときには、必ずしも『サロメ』のようなモダニズム的様式が継承されているとは言い難い。アイルランドの挿絵画家ハリー・クラーク(1889-1931)においては、筆者のこれまでの調査で『髪盗み』からより強い影響を受けていることが明らかになっており、基本的にはテクストに忠実に挿絵を描いている。美術史におけるモダニズム観は、挿絵で継承されていたビアズリー様式の実態を隠しており、様々な方法論が採られる現在においてもその評価は根深く定着している。本研究はこのような評価の見直しも射程に入れている。このように本研究の価値は、まずビアズリー以降の挿絵画家を再評価し更なる研究を生む素地を用意するという点にある。そして美術史上の意義として巨視的に見渡すときには、本研究はビアズリーを様式論から見直しながらもそれまでの評価を解体し再構築するという可能性を孕む。研究者:京都府京都文化博物館学芸員①調査研究の意義これまで、戦前戦中の前衛作家および前衛芸術団体に関する調査研究は、主に東京を拠点とする作家および団体を中心に進められてきた。本研究の中心となる小牧源太郎も、昭和戦前期に組織された創紀美術協会および美術文化協会の創立会員として、主にシュルレアリスム絵画の担い手としての側面から部分的に語られることが多かった。小牧の個別研究については、生前に行われたものからほとんど進展しないまま現在に至り、大規模個展としては、1996年に京都国立近代美術館で開催された「小牧源太郎遺作展」以来行われていない。本研究は、資料が豊富に残されているにもかかわらず、これまで十分に調査がされてこなかった小牧に関する基礎研究を進展させると同時に、京都の前衛画家の拠点となった独立美術京都研究所や新日本洋画協会の活動内容やその意義についても明らかにしていく。②価値本研究は、戦時中のシュルレアリスム弾圧下の画家たちの状況および、敗戦後の混乱から新しい芸術を模索する画家たちの状況を、小牧源太郎の状況から解き明かすこ―20―清水智世
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