⑤丸木位里・丸木俊の絵画作品《原爆の図》技法解明と修復に関する調査研究とを目的とする。シュルレアリスム思想が弾圧の対象となった1941年以降、小牧は絵画のモチーフを仏教へと変化させた。戦闘シーンや兵士の姿こそ描かなかったが、時代の趨勢を反映するとも言える仏画的な作品はまた、統制の中で行われた新しい表現の模索でもあった。小牧の戦時中の制作およびその軌跡を調査研究することは、様々な角度から調査研究が進められてきた戦争と画家というテーマに、新たな視点を付与するものであると考える。敗戦後、仏教から民間信仰へとモチーフを変化させたこともまた、根源的なものを希求した戦後の前衛芸術を、小牧の視点から見ていくことに繋がると考える。③構想小牧源太郎の基礎研究を進展させるために、京丹後市および伊丹市立美術館が所蔵する小牧作品および関連資料の調査を行う。同時に、独立美術京都研究所や新日本洋画協会、戦時中の史迹・美術同好会など、小牧と関係のあった団体の活動状況を明らかにする。あわせて、小牧と親交が深く、京都の前衛画家について語る際に欠かすことのできない画家・北脇昇の調査を、居宅であった臨済宗の寺院・廣誠院と東京国立近代美術館で行う。また、戦前戦後の京都の文化状況を豊かに示す能勢克男関係者資料の調査を、同志社大学人文科学研究所で行う。丸木夫妻の《原爆の図》は、1950年代の全国巡回展(全国170カ所)をはじめ、70年代の世界巡回展(アメリカ、ヨーロッパ)を含めた海外20カ国以上の発表活動をとおして、世界平和賞ゴールドメダル(1953年)、ノーベル平和賞推薦(1995年)といった国際的に高い評価を獲得し、夫妻の記録映画『HELL FIRE却火』(ジャン・ユンカーマン、1998年公開)は米アカデミー賞に選出・世界公開された。―初期1950年代シリーズを中心に―研究者:原爆の図丸木美術館学芸員―21―岡村幸宣小牧源太郎《壁画(十一面観音像)》1943年、京都市美術館蔵(*京都国立近代美術館『小牧源太郎遺作展』1996年より転載)
元のページ ../index.html#36