⑦須田国太郎の絵画表現に対する写真の役割についての研究【意義・価値】研究者:上原美術館学芸員齊藤陽介須田国太郎が撮影したとされる写真は、京都市京セラ美術館が所蔵する300枚近くと、新出の写真121枚を合わせて400枚ほどを数える。既に後者については筆者による報告書によって概略が紹介されているが、前者については、そのごく一部が紹介されるにとどまっており、その全体像は明らかにされていない。さらにこれらの写真全体の考察を踏まえて、写真が須田芸術において果たした役割についても従来明らかにされていない。本研究では個々の写真の被写体や撮影日時・撮影地点といった基本情報を明らかにすることで、遺された写真の全体像を明確にし、写真に対して須田がどのように取り組んだのかを検証する。さらに、従来写真の利用が指摘されてきた作品については、その多くが構図上の類似を指摘するにとどまり、明暗や細部描写について比較検討した例はほとんどみられない。加えて須田自身の写真に対する考えを述べた講演記録(註1)も残されているが、そうした芸術論を踏まえた検討はなされてこなかった。こうした状況から、写真を切り口に須田の作品、芸術論を検討することで、彼の作品の造形上の新たな一面のみならず、その独自の写実主義を考える上で意義があると思われる。また日本近代絵画における絵画の写真への利用を考える上でも、本研究は一つの視点を提供できるものと考える。【構想】須田国太郎の絵画に写真が果たした役割を検討するには、各写真の検討と、写真を利用した作品の比較というアプローチが必要と考える。また、これまで直接写真の利用が指摘されていない作品についても検討を行うことで、写真の役割を浮き彫りにできると考えられる。加えて写真の発明以降、主に画家たちはこれとどのような関係を築いてきたのかという他作家の事例についての検討も欠かせない。本研究ではこの点からの考察も行う。Ⅰ.遺された写真の調査Ⅱ.写真を利用した作品の調査Ⅲ.他の画家の写真利用の事例との比較検討Ⅰでは京都市京セラ美術館保管の写真の全体像を明らかにする。中谷氏によると―25―
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