⑧イタリア15世紀後期~16世紀初期における宗教著作の挿絵と絵画図像の研究300近くともいわれる写真(註2)について、可能な限り被写体、撮影日時を明らかにし、絵画への利用が推測されるものについては現地調査を通じて撮影地点を明らかにしたい。15世紀フィレンツェを代表する画家サンドロ・ボッティチェッリ(1444/45-1510)の後期作品は、より早期の作品に比べ、充実した学術研究がなされてきたとは言い難い。それは、制作にまつわる記録が現存しない作品が後期には多いことや、多くの後期作品に漂う神秘主義的雰囲気が宗教指導者ジローラモ・サヴォナローラ(1452-1498)の思想と呼応するものであるがゆえに、それ以上に踏み込んだ分析が看過されてきた傾向にあること等が、要因として考えられる。特異なモティーフや表現が多くみられるにも関わらず、その着想源が依然明らかでないままとなっているのである。そこで筆者は、ボッティチェッリの後期作品が制作された環境を探ることを目的とし、芸術家が作品制作のために利用可能だった、あるいは実際に利用した可能性のある資源として、15世紀後期~16世紀初期の宗教著作の挿絵版画に注目する。当時刊行物は市民にとって身近なものであったことから、そこに含まれた挿絵が、芸術家の制作になんらかの影響を与えた可能性は大いにあるだろう。実際にボッティチェッリの後期作品には、サヴォナローラの著作に付された挿絵との関連が、先行研究により指摘されているものがある。Ⅱでは既に写真の利用が指摘されている絵画を中心に実見し、写真との比較検討を行う。その際には構図のみならず、明暗や細部描写、写真特有のボケ表現の利用についても分析を行い、具体的に写真のどのような要素を利用したのかを明らかにする。Ⅲでは他の画家の写真利用の事例との比較を行いつつ、近代絵画における写実主義と写真の関係について考察する。その過程で須田の写真への考えも踏まえて、彼の芸術論を再検討したい。(註1)須田国太郎「新たに見出されたる美の諸相(講演趣旨)」『美・批評』3号、1930年(註2)中谷至宏「滞欧期の風景素描」『第6回須田國太郎展』白銅鞮画廊、1996年研究者:東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程本調査では、閲覧可能範囲の限られる写本ではなく、民間に流布し比較的容易に入―26―平井彩可
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