手できたであろう版本を、調査対象とする。含まれるのは、サヴォナローラ自身の著作物を中心に、サヴォナローラ周辺の刊行物、聖書などである。サヴォナローラは宗教改革の先駆けとも評されること、また、当時の文物の流通を考慮し、出版地はイタリアに限定せず、アルプス以北の地域も対象範囲とする。修道士の死後にも一派の活動は続くことを考え、対象時期を修道士の殉教以降にまで広げることには一定の意義が認められるだろう。特に、アレクサンデル6世と対立していたユリウス2世が教皇となった時期(1503-1513年)に、サヴォナローラ関連の刊行物がどのように浮沈しているかは注目すべき点である。宗教的刊行物に含まれる挿絵版画を調査し、どの程度挿絵が付されているか、どういったものであるのか、美術史的観点でカタログ化を試みたい。さらに、こういった挿絵版画が絵画作品とどの程度関連を持つかについても検討を行いたい。ボッティチェッリが宗教的印刷物からどのような刺激を受けたかが明らかになれば、サヴォナローラ思想との関連もより明確になると考えられるほか、芸術家の制作環境の理解につながることが期待される。加えて、サヴォナローラの預言者としての権威や信用は、説教や著作で語られる彼自身の幻視に支えられていた。したがって、修道士の幻視を図示する挿絵は、幻視という本来目に見えないものが図像化されるにあたりどのような絵画言語が用いられたのか、という問題を紐解く重要なサンプルにもなり得ると考える。当時の宗教的刊行物について、歴史学的、あるいは宗教学的基準で著された先行研究は存在するが、挿絵が扱われていることは少ない。美術史において研究対象となるのは、主にサヴォナローラ存命中の著作である。したがってより広域的な本調査でのカタログ化は、既存の研究を補完するものになり得ると期待される。カタログは、ボッティチェッリに留まらず、同時代の他の芸術家や宗教画についても応用可能な資料として、さらなる利用価値もあると考える。―27―
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