⑩田中信太郎の遺品資料に基づく作家研究基礎調査18世紀半ばごろの京都画壇は大雅、蕪村、若冲など多くの才気あふれる絵師が活躍したことで知られるが、彼らは画派を近代にまで引き継ぐことはほとんどできなかった。本研究では、王道を歩み続けた原派がいかに近世を生き抜いて、近代にまで家を存続させたのか、その一端を知るべくまずは在中・在正・在明という近世の絵師に注目する。【構想】本研究の大きな目的は、以上のように在中以降、幕末までの原派がたどった政治的な運動、および画風展開を検討することにある。手がかりとして、これまでほとんど翻刻が発表されず、内容の不分明であった「原家文書」を用いる。文書群は115点から成り、作品の発注書や、制作にかかる資料、下絵を含んで膨大である。中でも注目されるのは、原在明の著した『臥游集』全3巻・各100頁程度だ。作品の発注者、寸法、画題などが列記されており、詳細な記述から、現存作例との対比が十分に可能と考えられる。そこで『臥游集』をはじめとする史料から、絵画の発注者、制作年、および制作当初の状態(寸法や材質)をリスト化し、現存作例との対照を行う。筆者はすでに原家文書研究会を立ち上げ、日本史研究者、美術史研究者10数名による翻刻を進めてきた。今年度からは、京都府下に存在する障壁画群を調査するべく準備していたが、緊急事態宣言により一部かなわなかった。そこで予定の順序を変更して、調査可能な公立博物館施設所蔵品および寄託品の調査から行っている。研究者:国立国際美術館研究員本調査研究「田中信太郎の遺品資料に基づく作家研究基礎調査」は、戦後日本を代表する彫刻家の一人である田中信太郎の資料調査を通して、①戦後日本の美術運動に対する再検討、②野外彫刻(モニュメント等を含む)と環境の問題、③純粋美術と応用美術の関係性、以上3つの問題を考察・検証するための第一級の資料として多くの研究者が利用可能なドキュメンテーションを構築し、またその公開を目的とするものである。① 田中信太郎は、戦後最初期の美術運動であるネオ・ダダイズム・オルガナイザー―29―中井康之
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