⑮近世禅林肖像画の基礎的研究―頂相を中心に―るとされ、初摺りから北斎の表現意図を汲み取ることで作品の正しい解釈および鑑賞が可能となる。次に、収集した「神奈川沖浪裏」の画像を初摺りから後摺りまで順を追って整理することで、どのように摺りが変更されたのかを知ることができる。つまり、人気を博した錦絵が、版元の意向、版木の劣化、摺りの工程の簡略化といった諸事情によりどのように変更されたのか、その過程を具体的に知ることができる。水色の版の違いだけでなく、現在知られていない細かな摺りの違いが明らかになる可能性も考えられよう。そして、摺りの順序を明らかにすることは、「神奈川沖浪裏」の相対的な制作時期を知る重要な指標となる。まだ知られていない同作品の調査や研究、展覧会における作品選定などにおいても、必ず役に立つはずである。結果として、より多くの人々が北斎の本来の意図に近い作品を研究・鑑賞できることになるだろう。以上、ａ「北斎の表現意図に対する正しい理解」ｂ「錦絵の摺りの変遷についての具体例の提示」ｃ「今後の北斎研究における指標の確立」という3点において、本研究は浮世絵史的にも美術史的にも意義があるものと考えられる。研究者：花園大学歴史博物館研究員禅宗寺院には多彩な美術作品が伝来しており、近年、展覧会等を通じてこれらの美術作品に触れることができる機会が増えてきた。このような禅宗美術を概観すると、その特徴のひとつとして、肖像画の優品が数多く遺されていることをあげることができる。日本における禅宗の展開を振り返ると、禅宗は時の有力者を迎えて寺勢の発展を遂げてきた。したがって、禅宗寺院にはその開創と発展を支えた開基や外護者の肖像画が数多く伝来している。とりわけ、戦国期から近世初頭における武将・大名やその夫人等の肖像画は目を瞠るものがある。このようなことから、禅宗寺院は「肖像画の宝庫」と称すことができよう。しかし、禅宗において最も重要とされる肖像画の存在を忘れてはならない。祖師の姿を描いた頂相である。師資相承を重んじる禅宗寺院では、歴世の頂相が最も重要なものとして大切に遺されている。その数は一般の肖像画を上回る。―36―志水一行
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