四川省成都出土の天王像に関する考察「意義・価値」:本研究は、四川省成都市内で出土した、南朝の造像とされた天王像を対象とし、これらの像の様式的な表現を説明することにとどまらず、僧伝などの文献史料を併用し、信仰対象としての役割を担った像の成り立ちの背景を究明しようとするものである。術館とのネットワーク構築は、三重県立美術館所蔵品の個別研究のみならず、モネの画業全体の研究や19世紀フランスの画家のアトリエ研究の発展にも貢献し得るのではないだろうか。研究者:早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程ところで、周知のように、仏教が中国社会に深く浸透し続けた南北朝時代には、現存作例と諸文献によって分かってきたように、造像活動が盛んになったが、膨大な作品を残した北方に対し、南方の仏教遺例はほんの僅かであり、しかももっぱら四川地域に集中している。そのため、都から離れた四川地域における信仰の実態についての考察は、重大な意義があると考えられる。本研究では、成都市内で出土した南朝の天王像を取り上げ、他地域では見られない像容の表現から、群像から独立してきた可能性を提示し、この地域で生み出された性格であることを示す。したがって、本研究によって、南朝における仏教造像の一面に迫ることが期待される。さらに、2020年の拙論「法隆寺献納宝物甲寅年銘光背についての一考察―中国南朝の造像との関係を中心に―」で詳しく論考したように、同じく下同仁路出土天王像等の例にみられるモティーフが都であった建康からのものを作品に取り込んだと考えられる。つまり、四川地域の仏教造像を究明することは、当時のこの地についての理解がより深くなることだけではなく、裏付けられる実例が不十分である都の建康と、同様に仏教の隆盛地であった長江中流の荊州地区における仏教美術についてどう理解するかという問題に対しても、極めて重要であると思われる。「構想」:上記した「問題の所在」に述べたように、これまでの研究では、基礎的考察は行われたが、天王像の性格、地域性、役割などについては論及されなかった。本研究は、図像を的確に分析したうえで、これらのことに着目し、明らかにすることを目―45―馬歌陽
元のページ ../index.html#60