鹿島美術研究 年報第38号
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「真景」の広がりためには、出来るだけ多くの作品を取り上げることが必要である。次に、青磁の発展の中で、清朝官窯の青磁の位置づけを考察する。先学において中国の青磁は、漢時代に完成に至る原始青磁から、唐・五代の越州窯、北宋の耀州窯や汝窯、南宋の官窯、明時代までの龍泉窯を、一つの流れとして捉えるものが多い。ところが、青磁の焼成は、上記の窯に限らず、中国各地の窯で広く行なっており、景徳鎮窯も重要な青磁の産地の一つである。景徳鎮窯は、青花や五彩の絵付け製品が主力である一方、明時代以降、青磁の生産も行い、とくに清時代の雍正・乾隆年間は、質量ともに隆盛を極めた。器形と釉色の類似性の高い龍泉窯と比較しつつ、明時代以降の景徳鎮官窯の青磁の展開を確認し、青磁史の中での位置づけを考えてみたい。最後に、わが国における清朝官窯の鑑賞と収集の動向に注目したい。わが国において、清朝陶磁の受容は、20世紀初頭、明治末期から大正初期に起こった清王朝崩壊をきっかけに始まり、戦前の1930年代に流行のピークを迎える。この時期は、多くの精作の青磁が将来しており、それらは「寧(年)窯」という呼び名で親しまれた。バウアー・コレクション(スイス)やデイヴィッド・コレクション(イギリス)との比較を通して、日本と西洋における清朝官窯の青磁の鑑賞と収集の傾向を探る。研究者:尚美学園大学芸術情報学部教授「真景」の語は日本語の辞書では実景と同義とされる。真景を表したものが真景図である。真景(図)は日本美術史の用語として広く用いられ、作品名に真景を含むものも多い。近年、真景(図)について研究が活発に行われており、真景(図)はごく簡単な定義や説明によって、もしくは定義をせず、すでに確立した自明の概念、用語として用いられる。ところが各研究での定義、説明は真景が理想的、概念的な山水とは異なる実景という共通点はあるものの、研究によって画家の実体験、写生、写実的な表現、中国の画論との結びつきなど、それぞれの興味、関心、論旨に合わせて定義しており、真景(図)は定義と範囲が定まらない。もともとは中国の画論、五代の荊浩『筆法記』に真景の語が見え、文人画で実景に接した体験を重視したことが日本にも取り入れられたと理解できるが、用語として定義していくと範囲を文人画に限定することは難しく、文人画に限定せず真景(図)を用いる傾向にある。―47―伊藤紫織

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