鹿島美術研究 年報第38号
70/134

や麦積山石窟の壁画が現存最古で、初唐の敦煌莫高窟220窟南壁の作例において構図の完成期を迎えた。阿弥陀浄土図の先行研究では、浄土経典・儀軌をもとに各モティーフを対照してその浄土図の所依経典を比定し、その図像的意味を問う研究が主体である。構図の成立に関する研究はあまり行われておらず、その構図や景観モティーフの配置がどのような経緯で決定されたか、成立の過程については不明な点が多い。本調査研究の独自性は、最初の構図の成立過程に注目する点である。当時の画工の立場に立って構想と作画の方法を解明する、新規性のある研究である。2.価値中国での阿弥陀浄土図の成立過程と展開が解明できれば、観想念仏の実態や中国から朝鮮半島、日本への伝播状況も明確になる。また弥勒浄土図、薬師浄土図など各種浄土図研究、また浄土図以外の仏伝図・説話図等の構図研究にも応用可能である。さらに中国絵画全般、同時代の西アジア、東南アジアの仏教絵画の作画法の研究にも波及すると考えている。比較の中で、浄土図の特色も明確になり、仏教絵画、東洋絵画における意義も明らかになる。このことは、美術史研究だけではなく一般的な美術鑑賞の進展にも寄与すると思われる。3.構想拙稿(2010年)では、中国で最初に阿弥陀浄土図を描いた画工は、現実にある皇帝の宮殿の庭園施設「苑」の景観、つまり巨大な池、樹木や草花、建物が阿弥陀浄土のイメージとなり、構図や遠近表現の参考にしたと述べた。この試論をもとに、本調査研究では、浄土図の構図や景観モティーフの分析を行い、皇帝の苑の景観との関連を論証していく。そのために、図版をPC上で分析し、視点の位置、分割した各部分の割合、景物の遠近表現など、画工の立場に立って描き方を分析していく。またインドや西域における壁画の影響、また庭園史、景観学、図学なども勘案し、様々な観点を総合し、最初の阿弥陀浄土図は苑の景観をもとに構想されていったことを明らかにする。この中国の伝統は、朝鮮半島や日本の浄土図および浄土堂、さらに平安後期の数々の浄土庭園や阿弥陀堂にも影響を与えることとなったと考えている。―55―

元のページ  ../index.html#70

このブックを見る