ーナスやアルタミラの壁画から世界各地における民俗学的彫像、中世やルネサンス期における絵画等を経て、20世紀絵画史に至るまでの、人類史を壮観するスケール感を湛えた歴史的視座に立った分析と言及を行っている。このダイナミックな相関図のなかに、20世紀初頭において意識の大変革をもたらした20世紀最大の芸術運動であったシュルレアリスム運動を問い直し、改めて位置づけようとした。本調査研究では、ライフワークであるシュルレアリスム運動とその概念への視点を素地として、「シュルレアリスムにおけるモードの表象とその親和性」をテーマに据える。筆者のこれまでの調査研究や、所属美術館において携わってきた展覧会開催準備のプロセスにおける考察を踏まえ、なぜシュルレアリスムとモードが関連付けられ、またその親和性が指摘され得るのか、その本質について問い直す。また、シュルレアリスムそのものの概念の特質を再検証し、さらにはモード発展のプロセスにおけるシュルレアリスムの影響力と、無意識化に存在する人類の革新的表現に対する欲望とその普遍性について考察する。筆者は東京都庭園美術館において、2021年度における展覧会として「奇想のモード―玉虫から光る繭まで(仮称)」展を提案している。本展は、モードの世界における <奇想>をキーワードとして、革新性や奇想天外な表現力に注目し、古くは16世紀のファッションプレートから、遺髪を装飾品として肌身に着けたモーニングジュエリー、さらには錦絵に描かれた花魁の姿や、そこからインスピレーションを受けて制作された現代作家による靴等を展示することによって、ファッションに投影されたクリエーターたちの発想力とその魅力を展覧しようとするものである。展覧会は、キーワードによって章立てされるが、その中の1章に、シュルレアリスムとモードの関連性を考察するセクションを設ける予定である。本章では特にシュルレアリストらによって1930年代~50年代を中心として制作された作品群に注視するとともに、<奇想>というキーワードによって抽出された作品群のなかにも垣間見られる、シュルレアリストらの感性や興味に類推される表現を並置して、その精神性や意識の中に通底する普遍性を考察するとともに、1924年にパリにおいて宣言されたシュルレアリスム運動の、モード界におけるその後の影響力についても検証し、「裁縫」を司るイマージュとシュルレアリスムとの親和性についても考察する。今回の調査研究は、関連展覧会の構成セクションにおける検証のプロセスをより深めようとするものであり、その題材となる作品については広く検証するとともに、本展の出展作品をもひとつの足掛か―59―
元のページ ../index.html#74