鹿島美術研究 年報第38号
75/134

アレクサンドル・ファルギエール(1831-1900)の造形観りとすることが可能である。多方面からの考察対象であるシュルレアリスム研究のひとつの問題提起として、現代に至るまでのモードの発展におけるその意識の変革や発想力に多大な影響を及ぼしたと考えられるシュルレアリスム運動の存在意義について再検証することで、ファッションおよびシュルレアリスム研究のそれぞれの領域からの横断的な研究の考察を深め、今後の検証のひとつの参考材料となることを目指したい。研究者:パリ・ナンテール大学博士課程本調査・研究の目的:本研究の目的は、まずファルギエールの作品、そして彼の彫刻観を19世紀造形史において正確に理解することを目的としている。さらに、この目的をより大きなコンテクストに位置づけるならば、こうしたファルギエールの再評価を通して、近代彫刻史における従来的な評価のメカニズムを明らかにし、そこからこぼれおちていた「型取り」などによるリアリズム彫刻を改めて考察し直すという目的を有している。ファルギエールという彫刻家を再評価しつつ、彼の作品群における直彫りやモデリングといった通常の彫刻術とは異なる性格を改めて分析することによって、最終的にはより多様な性格を有していた近代造形史を記述する。構想:本研究は3つの項目、すなわちファルギエールという彫刻家の経歴と同時代評価について一次史料をもとに丹念に把握し、この彫刻家の具体的な作品の造形的分析およびその同時代的受容を明らかにしたうえで、最後に以上のような分析からファルギエールの彫刻観を同時代の芸術家たちのなかに位置づけることによって構成される。言説面での調査・研究においては、この彫刻家について記された一次史料の丹念な収集・分析に始まり、各作品についてのサロン評や没後の追悼記事などが網羅的に収集される。また造形的分析の際には、彼のブロンズや大理石、石膏作品と比較する例として、異なる素材、異なるプロセスによって生み出された造形物(例えば、《聖タルチシオ》には当時の蠟製人型聖遺物容器など、《バッカント》などには「型取り」に基づく石膏像など)との比較を行いたい。以上のような考察を行うことによって、言説と造形の両方面から、ファルギエールを19世紀彫刻史のなかに定位しつつ、その独自の造形観を浮かび上がらせたい。―60―請田義人

元のページ  ../index.html#75

このブックを見る