ドナウ派の風景画と樹木信仰(意義・価値)1520年頃、ドナウ派の画家たちによって西洋ではじめての独立した風景画が生まれたが、その意味についてはいまだあきらかになっていない。本研究は、16世紀ドイツの風景画について、キリスト教的伝統や民間信仰からアプローチするものである。1500年前後のドイツでは人文主義が興隆を迎え、政治や学芸の分野で愛国主義(郷土愛)の機運が高まっていた。ドイツ人文主義の第一人者、コンラート・ツェルティスは、神聖ローマ帝国内に人文主義サークルを形成し、共通のゲルマン意識を醸成している。ラリー・シルバーやクリストファー・ウッドらによる先行研究でも指摘されてその意義や価値:本調査・研究によって、以下のような意義や価値が生まれると考えられる。まずは、ファルギエールという当時重きをなしていた彫刻家を再評価することによって、「前衛」とは異なる芸術家たちの同時代評価を改めて把握することができる。そのうえで、彼の造形作品を分析していくなかで、ロダンに端を発し、その後ブールデルやマイヨールにつながっていくような従来的な近代彫刻観とは異なるメカニズムで形成される作品のプロセスを浮かび上がらせることができる。ここには、当然、「型取り」という技法の再評価が関わることとなる。この技法が生み出すリアリズムは、機械的な手法ゆえに「芸術的」なものとは理解されず、むしろ職人的なものと考えられた。しかしながら、ファルギエールの作品、およびそれらを論じるにあたって参照するそれ以外の作品(蠟製の聖遺物容器や解剖学模型などの造形物)においては、リアリズムは単なる事物の正確なコピーという意味合いを有しているだけではない。こうしたリアリズムは対象を表象(re-présenter)するのではなく、限りなく鑑賞者の前に現前(présenter)させようとするものであり、こうした造形的性格はとりわけ近代美術の文脈においてはこれまで研究の対象とはなってこなかった。近代的な彫刻観のなかで「芸術的」なものとされてきたような大理石への直接の直彫りやモデリングといった技法とは異なり、対象をそのまま表出させるような「型取り」が、19世紀当時においてどのように評価され、受容されていたのかが本調査・研究によって、明らかになるだろう。研究者:下関市立美術館学芸員薮田淳子―61―
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