鹿島美術研究 年報第38号
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「天稚彦草子」諸本の研究【目的】ルーカス・クラーナハが多く制作した1510年頃の「樹木の聖母像」と近いものがあり、関連があると思われる。研究者:成城大学非常勤講師大月千冬本調査研究の目的は、天の川誕生の由来、七夕の由来を説く御伽草子「天稚彦草子」を題材とする絵画作品諸本の関係を明確にすることである。【その意義・価値】御伽草子絵巻・奈良絵本は数多く現存し、質・量ともに豊富であり、研究対象として今後大いに期待できる分野である。こうした作品研究には詞書やストーリーとの関わりが不可欠であり、美術史(絵画史)、国文学双方からのアプローチが必要であると考える。すなわち、美術史(絵画史)の枠組みにとどまらず、国文学などの他分野領域との相互研究を実践することにより、曖昧であるといわれてきた御伽草子絵巻・奈良絵本を取り巻く諸相を解明できると申請者は考え、研究の価値を見出すものである。【構想】御伽草子絵巻・奈良絵本の現存作品は数多く、研究の余地が広く残されている。筆者の研究は、同一題材諸本の関係性を明らかにすることである。これまで筆者は「天稚彦草子」現存諸本の発見に努め、作品調査を実践し、諸本の系統化に取り組んできている。現時点では、数多ある御伽草子絵巻・奈良絵本全体の一題材に過ぎないが、この方法論を継続して成し遂げることが、御伽草子絵巻・奈良絵本の実態解明に着実に寄与するものであると確信する。1520年頃にドナウ派によって成立した風景画の背景には、人文主義的な郷土意識の高まりがあるが、それとともに、古ゲルマンの樹木信仰や「樹木の聖母」のようなキリスト教的な意味が込められていることをあきらかにしたい。以上の研究によって、ドイツの風景画が単なる新しいジャンルの始まりを告げるものであっただけでなく、きわめてドイツ的で、宗教改革に揺れる時代ならではの特異な表現であったことが示されるであろう。―63―

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