鹿島美術研究 年報第38号
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るのである。装身具は、三世紀から六世紀にかけての中国世界の変容あるいは周辺地域との関係を検討する上で重要な資料だといえよう。壁画などの画像・図像、墓の副葬品、仏像などの立体造形など、さまざまな次元で装身具はみえているものの、名称同定等、考証学的な認識の域を出る議論は少ない。装身具の組合せ、その社会的価値(機能)へと議論が及ぶことは少ない。本研究では、出土資料を中心に文献資料を対照しつつ、「装身具」をめぐる人の動き、認識へと接近することを目的とする。身体装飾の形に注目することにより、古典的中国世界から新たな秩序が創出される過程を多次元で描き出せることにつながる。ことに、その基盤となる両晋時代の装身具の整理を中心に、南北朝時代との対照、周辺諸地域との対照を射程に入れて検討を進めることにしたい。そのことにより、3つの研究成果が期待される(研究課題概念図参照)。一つは、身分秩序を反映した「身体装飾のかたち」を実物に即して復元することである。輿服志などの文献資料が記録する服飾制度を相対化し、理念と実態を対比することにより、装身具にみえる現象を、両晋期の社会論や物資物文化論として評価する。装身具は、制度を検証・実態化・可視化する装置としての限定性から解放されること研究課題概念図―65―

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