「抒情画」の誕生―竹久夢二らによる雑誌挿絵の展開をめぐる考察―研究者:竹久夢二美術館学芸員中川春香●意義観音の檀像の意義を、陀羅尼を伴うという宗教的文脈から明確に説明した先行研究は未だなく、本研究はこの点において大きな意義を持つ。筆者は既に大報恩寺六観音像でこの議論をおこなったが、この一作例に確認できる観音檀像のあり方を、平安後期~鎌倉時代の日本全国へ視野を広げて検証することによって、当該時代の仏教彫刻史に新たな見方をもたらすことができる。また、この問題は代用檀像を成立させる用材と深く関わっているが、近年研究が進んでいる用材観に陀羅尼との関わりという新たな観点をもたらす意義もある。●価値本研究は観音信仰と造像を、史料と造形の調査から個別具体的に検討するとともに、経典に忠実に従った作法・思想に基づく檀像の、平安から鎌倉にかけての大きな流れを俯瞰・検討するものでもある。これにより従来の観音像研究に新たな視座を提供できると考える。研究方法は、具体的に次の特色をもつ。これまでに筆者が大報恩寺六観音像の研究で検証した、像の主題(観音)・用材(檀像)・納入品又は銘記(陀羅尼)・製作理由(祈願)が相互に影響を及ぼしあっていたあり方を、さらに広い範囲において確認し、中世の観音檀像にもこれらのあり方が見られるか否かを検証する。これにより、観音の陀羅尼に期待される効験・利益の変遷と造像の関係を俯瞰し、観音造像史全体を見直すことできると考える。また、筆者はすでに観音像の造形は陀羅尼とその内容によって規定されている可能性を見出し、仏像の様式は仏師個人の芸術性の表れであるという従来の見方とは一線を画した。それは、個々の作風には、仏師による施主の願いの忠実なる反映、または仏師本人の教学の理解の表れがあると見る立場でもある。本研究は、こうした立場から、平安及び鎌倉彫刻史・檀像彫刻史・観音信仰史の各研究を新たに見直そうとする試みである。●構想本研究は、もともと筆者の研究テーマである大報恩寺六観音の宗教的文脈を説明す―80―
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