鹿島美術研究 年報第39号
119/142

 19世紀フランスにおける海景画コレクションの形成史に関する研究― 104 ――ヴェルサイユのフランス歴史博物館のための国家注文を中心として―は蝉の声を楽しむという(藤崎憲治など『昆虫科学が拓く未来』京都大学学術出版会、2009年)。一概に、西洋人が虫の音を雑音だと認識しているとは言い難い。日本の草虫表現が西洋の美術にも影響を与えたことは事実であるが、その根本の研究が進んでいないことで、「虫愛づる日本人」の姿は実像からかけ離れたものになっていないだろうか。そこで、まずは《夏秋渓流図屛風》、《檜蔭鳴蝉図》をもとに、檜と蝉に焦点をあて、そのイメージの変遷をたどる。そして、江戸の草虫表現が抱える諸問題を、ひいては虫と日本人との関係性を解明する糸口になりたいと考えている。研 究 者:町田市立国際版画美術館 学芸員  高 野 詩 織本研究の目的は、以下の3点に要約される。1.「海軍の公認画家」に関する研究の促進「海軍の公認画家」として任命された画家たちは、フランスの歴史を彩る海戦や、統治者のフランスへの上陸、船舶の水進式、海難事故など様々な場面を、時に幅3メートルを超える大画面に描いた。今日でも彼らの作品はパリの国立海事博物館等で目にすることができるが、ギュスターヴ・クールベ、クロード・モネら先進的な画家たちの海景画に比べると、作品の調査は十分になされているとは言い難い。今後はいわゆる忘却された画家たちの足跡を■るだけでなく、個々の作家の制作理念や造形的特徴、同時代における評価等について慎重に調査研究し、その功績を美術史上に位置付けていく段階にあるだろう。こうした問題意識から申請者は、「海軍の公認画家」の絵画について、注文・制作からサロン等での発表、受容まで一連のプロセスに着目した分析を試みるに至った。それによって政府の要望に応えながらも、外海での実景観察に基づいた真実味のある風景表現を探究した作家たちの近代性を指摘することに寄与したいと考えている。2.「海軍の公認画家」の同時代におけるインパクトの解明19世紀中頃のフランスでは、政府主導で制作された大規模な海景画が注目を集めるのと同時に、海の風景を主題とする小品も数多く描かれた。2003年の「マネと海」展において、ジョン・ザロベルは、この時代の海景画を、ロマン主義世代の画家、公的

元のページ  ../index.html#119

このブックを見る