鹿島美術研究 年報第39号
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― 105 ―注文による海戦画、そしてピトレスクな海の風景画の3つのグループに分類した(■■■■■■■■■■■■■■■■■, exh. cat., Art Institute of Chicago, Philadelphia Museum of Art, Van Gogh Museum, 2003)。海景画という絵画ジャンルを軸とした画壇の様相を示したことは展覧会の大きな成果であるが、ここでそれぞれの作家や作品の関係性は、同時代に海景画を制作したという以上に追求されてはいない。そこで本研究では、「公認画家」と同時代の海景画家たちの影響関係を探るべく、当時フランスで一般公開されていた海景画の国家コレクションに着目した。海軍公認画家たちのダイナミックな大作がサロン会場で存在感を放ち、海の風景を手がける次世代の画家に強い印象をもたらしたことは、モネが師ウジェーヌ・ブーダンに宛てた1859年の書簡でも示されている。また国家に受け入れられた公認画家の作品は、サロンの閉幕後にもフランス歴史博物館やリュクサンブール美術館といった施設で常設展示されていた。そのため申請者は、こうしたコレクションの展示を通じて同時代の画家たちが、前世紀から続くこの絵画ジャンルの伝統や、名誉ある地位にあった公認画家による海の表現を学ぶことができたという仮説を打ち立て、海景画の伝統と刷新をめぐる画壇の様相を明らかにすることを目指した。3.「フランス歴史博物館」のコレクション形成史に関する事例提供現在4500点を超えるヴェルサイユ宮殿の絵画コレクションの中には、絶対王政期ではなくフランス革命以後になって制作された作品も数多く含まれている。とりわけ重要なのは、全長120メートルに及ぶギャラリーを飾るために、国王ルイ=フィリップが注文した戦争画群である。この他にも「十字軍の間」、「元帥の間」といった部屋が設られていたが、こうした小中規模の展示室のコレクションについては、いまだ断片的な研究しか進められてない。計4部屋で構成される「海事の間」はその一例で、1830年に「海軍の公認画家」となったテオドール・ギュダンとその弟子が20年余りの年月をかけ展示物の大部分を制作した。本研究では歴史博物館の整備に関する記録文書とあわせて観光案内本や旅行記も参照し、「海事の間」が形作られるまでの変遷を■ることで、歴史博物館における絵画コレクション研究について一つの具体例を提供したい。

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