対馬宗家文書に見る漆器― 106 ―研 究 者:九州国立博物館 学芸部 企画課 特別展室長 川 畑 憲 子■調査研究の意義と価値本調査研究では、九州国立博物館が所蔵する1万4千点に上る対馬宗家文書(重要文化財)および他機関が所蔵する関連史料から、漆工品にまつわる記事を精査し、当時の日朝間における漆器をめぐる諸相について明らかにすることを目的とする。宗家は、室町時代から江戸時代にかけて日本と朝鮮との間の外交の実務と貿易を独占し、日朝関係史において大きな役割を果たした家であるが、宗家史料を漆工研究の観点から取り上げた研究は従来ない。本調査研究を実施することで、日朝間の漆器を介した相互交流の様相が具体的に明らかになることが期待され、その意義や価値は深いものと考える。さらに記事の内容に関連する伝世漆器の調査を組み合わせることで新知見を得る可能性も高く、本研究が日朝漆工史を一歩進める、重要な基礎研究となると考える。■調査研究の構想等本調査研究の構想は以下のようである。対象とする資料は、九州国立博物館が所蔵する対馬宗家文書(重要文化財)約1万4千点及び関連史料、さらに国内、海外に伝世する日本製、高麗李朝製漆器、約20点である。1.対馬宗家文書の調査―九州国立博物館に所蔵される対馬宗家文書(重要文化財)および関連史料の調査を行い、漆工関係のデータを収集する。2.関連する伝世漆器の調査―1で収集したデータに関連する日本製漆器、高麗李朝製漆器について詳細な調査を行う。科学調査が可能なものについては、合わせて行う。3.漆器をめぐる諸相の検討―1、2の調査、考察をふまえて文献史料、作例をあらためて博捜するとともに、当時の朝鮮における日本製漆器の価値やイメージ、日本における朝鮮製漆器の流入や受容などについて具体的に検討する。
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