― 18 ―《西洋美術部門》 財団賞:藤﨑 悠子 ルネサンスのイタリアにおける「キリスト哀悼」彫刻群像表現の研究 優秀者:長名 大地 第二次世界大戦下におけるピエール・マティス画廊の役割 ―ヨーロッパとアメリカの美術交流を中心に―雑劇である「村田楽」を描いたものであることを突き止めるなど、広い視点で主題の猿曳図を捉え、新知見を提示したことが高く評価された。藤﨑氏の「ルネサンスのイタリアにおける『キリスト哀悼』彫刻群像表現の研究」は、ルネサンス時代、1470年頃からほぼ半世紀にわたりイタリア北部地区で数多く制作された群像彫刻を対象とする研究である。主題となる「哀悼」のテーマは、十字架から降ろされたキリストの遺骸を埋葬するため墓所に運ぶアリマタヤのヨセフとニコデモが、その途中で歩みをとめ、キリストの死を嘆き悲しむ場に、聖母マリアや立会人が加わったと想定する物語を発生源として成立した。研究報告では、「キリスト哀悼」図像の成立と変遷を■った後、イタリア北部に残る「哀悼」群像彫刻の調査に基き、それらの作例をポー河流域に分布するものと、トスカーナ地域に残るものの二つに分類し、代表的作例の分析を通じて表現上の特質を明らかにする。ポー河流域の作品群は、「哀悼」図像の発生源である物語的枠組みを色濃く残しており、中心人物の聖母が失神する姿や、立会人の情動表現を強調することで観衆の共感を誘い、信仰への参画を促すという「写実的かつ演劇的傾向」を示す。他方、トスカーナ地域の群像彫刻は、祭壇彫刻として壁面に設置する形式が主流で、キリストの遺骸を抱く「ピエタ」形式の聖母を中心に、立会人はやや背後に退く安定した左右対照の構成を見せる。物語性よりも礼拝像としてのイコン性に重点が置かれ、登場人物も情動表現を抑制して「穏やかで調和のとれた表現」を特色とする。さらに藤﨑氏は、作品の制作背景に考察を進める。この時代、ポー河流域において、自らに苦行を課す■打ち兄弟会の運動が盛んに行われており、その勢力範囲がそのまま「哀悼」群像の分布地域と重なって、相互に影響を及ぼしていたことを明らかにする。例えば、兄弟会の重要な活動である死刑囚を悔悛と信仰へと導くため、群像表現(文責:有賀選考委員)
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