鹿島美術研究 年報第39号
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― 19 ―(注)研究者の課題、所属、職名は選考時のものです。 ② 2021年助成者選考報告 ③ 研究発表会の中で埋葬の具体的ヴィジョンを死刑囚に示すと同時に、兄弟会メンバー自身の姿を埋葬人に投影するという結果をもたらしたと論じる。また、トスカーナ地域の「哀悼」群像は、設置場所が托鉢修道会聖堂であることが多く、その信仰形態や宗教理念を反映する表現形式を見せるようになった。修道会は祈りと瞑想による修行を重視しており、「哀悼」彫刻群像においても、静かに悲しみに堪える聖母の姿を強調した「ピエタ像」を中心とする礼拝像形式が発達した。これらの視覚化された聖母のイメージが、修道士や信徒たちの信仰を支える力となったことは言うまでもない。以上のように本研究は、ルネサンス彫刻史の文脈では、ともすれば軽視されがちな「哀悼」群像彫刻に明確な歴史的位置づけを与えると同時に、作品制作という「手先の業」が時代の「精神風土」と密接にかかわり合っていることを明らかにした点において極めて優れたものであり、高く評価される。長名氏の研究「第二次世界大戦下におけるピエール・マティス画廊の役割―ヨーロッパとアメリカの美術交流を中心に―」は、1942年にニューヨークのピエール・マティス画廊で開催された「亡命芸術家」展に焦点を絞り、その再構成を試みるとともに、同展を巡るさまざまな言説を通じて、それが戦後アメリカ美術発展の方向を定めたという歴史的位置づけを明確にした優れた研究と評価される。第27回鹿島美術財団賞授賞式に引き続き、選考委員を代表して、高階秀爾・大原美術館館長から2020年1月27日開催の助成者選考委員会における選考経過について説明があった。本年度の研究発表会は5月20日鹿島KIビル大会議室において、第27回鹿島美術財団授賞式・2021年助成者選考報告に引き続いて、財団賞受賞者2名とそれに次ぐ優秀者2名の計4名の研究者により次のとおり発表が行われた。(文責:高階秀爾)

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