⑵ 東京美術講演会………………………………………………………………………296万円本年度の東京美術講演会は高階秀爾大原美術館館長の総合司会により以下のとおり― 24 ―「キリストの墓への埋葬」へと至る間の任意の瞬間に近親者が立ち止まって救世主の死を悼む表象として発展した。そのため、場面設定自体は自由度の高い主題である。重要なのはむしろ近親者の嘆きの視覚化であり、とりわけ聖母による共同受難の痛みを信者に伝えることであった。アルプス以北の諸国の彫刻作例の多くがキリストの遺体をまさに石棺におさめる「キリスト埋葬」の瞬間を忠実にとらえているのに対し、類似するイタリアの彫刻作例では、上記の主題の曖昧さをうけて多様な描写が試みられたことが特徴的である。そしてその発展においては、近似する主題「ピエタ」や「十字架降下」といった彫像表現の伝統が融合している。彫刻作例の分布は、北イタリアの4州――ロンバルディア州、ピエモンテ州、エミリア=ロマーニャ州、ヴェネト州にまたがるポー河流域と、トスカーナ州のフィレンツェを中心とする地域にみられ、この地理上の大きな2つの分類が、表現形式上の区分ともなっている。本発表では、この2つの潮流の発展史を概観したうえで、形式の選択を違えた要因を考察したい。すなわち、前者のポー河流域の作例は自立彫像によるジオラマ的な作例が多く、制作には■打ち苦行兄弟会の介入が確認される。これは、都市の中の擬似聖墳墓巡礼による贖宥の獲得や、兄弟会による宗教行列での利用、死刑囚の慰問と埋葬における“模範”としての役割など、群像に空間的臨場感と迫真的感情表現を要求するいくつかの背景があったことによって説明されよう。一方、後者のトスカーナの作例は托鉢修道会の祭壇を飾る高浮き彫り形式であることが多く、そこに共通する厳粛な表現、安定した構図は、「ピエタ」のもつイコン的性格を備える。その制作にはロッビア家をはじめとするサヴォナローラに傾倒した彫刻家たちが関わり、この修道士の思想への共鳴を示すような表象が繰り返されたことが指摘できる。実施された。日 時:2021年10月28日 午後2時〜5時30分会 場:鹿島建設KIビル 大会議室出 席 者:約180名(オンライン視聴含む)総合テーマ 『影の美術史』 総合司会 大原美術館館長 高 階 秀 爾
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