― 31 ―④ 肥前陶磁にみられる和様の解釈研 究 者:出光美術館(門司) 学芸員 髙 木 大 輔●本研究の意義・価値桃山〜江戸時代の肥前陶磁の作陶技術や意匠的な影響関係については、考古発掘の成果に基づく研究、九州陶磁および同時代の各地陶磁器との比較による研究が主である。具体的には、陶器では、朝鮮からの技術導入、茶人の意向と美濃焼の影響、九州各地への技法の伝播などが指摘され、磁器では、景徳鎮と有田との関係、輸出による海外との影響、京焼と有田焼、鍋島様式の成立過程、有田焼と三川内焼との共通性、などが挙げられる。しかし日本の他工芸や絵画作品からの影響については、若干の考察が試みられているのみで課題として残されている。本研究のねらいは、これら先行研究に美術史学の視座を加えることにある。1)それまで考察が進んでいなかった日本の他工芸、絵画作品など、広範囲な分野を取り込んでの比較検討を行うことで、肥前陶磁を広い視野での事象として評価をすること、2)個々の作品がもつ意匠の象徴的な意味を解読し、作品の制作背景や需要者、使用された場などを考察することは、肥前陶磁研究にとっては新しい視点となる。特に後者の図像学的なアプローチは、本研究が嚆矢となるような試みであり、大きな意義・価値のある研究である。●本研究の構想本研究では、それまで中国陶磁への志向性が強かった肥前陶磁のなかで、新たに生まれた「和様」の概念を手掛かりとすることで、作品の様式・図像の実態解明を試みる。対象とする時代領域は、磁器生産が始まった17世紀初期から、様式が定型化する元禄期ごろ(18世紀)を中心とし、日本の他工芸、絵画作品からの影響を検討し、肥前陶磁の各様式(初期伊万里様式、古九谷様式、鍋島様式、柿右衛門様式、古伊万里・金襴手様式など)の特徴を明らかにすること、肥前陶磁にみられる意匠の象徴的な意味を解釈すること、ふたつを主目的とする。多元的な影響関係をもつ肥前陶磁の意匠にあっては、「和様」という枠組みを用いることにより、肥前陶磁の意匠の歴史的な展開と、意匠の深淵な意味が読み解けるものと考えられる。つまり、それまで作陶技術や様式に、中国・朝鮮半島からの影響が色濃く反映されていた肥前陶磁が、国産磁器の本格化や、欧州への輸出陶磁生産、鍋
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