鹿島美術研究 年報第39号
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― 32 ―島様式の成立などを背景に、かつての模倣する意匠から、新たな和様の意匠へと展開していったことに注目をすることで、他の工芸・絵画作品からの影響と、象徴的な意匠の意味とが、より明確に指摘できるものと思われる。先行研究では、陶磁器間での影響関係の指摘が主であり、他分野との影響については、同時代の衣装デザインとの類似が指摘されているが、未だ考察の余地があると思われる。具体的には、土佐派・狩野派などを念頭においた絵画作品・資料、漆工品、能装束との比較を行い、その類似、影響関係を指摘する。また象徴的な意匠の解釈では、謡曲、詩歌、古典文学の知識といった古典智をもとに、図像解釈の新たなアプローチを試みる。期待される成果としては、肥前陶磁の意匠には、日本の他工芸のほか、土佐派・狩野派などに定型の日本的な画題が散見され、少なからず影響のあったことがうかがえること。また、器面を「絵解き」するような、古典智を前提知識とした意匠をもつ作品を見出すことができる。そして、これらから判明するのは、各様式の和様に、それぞれ需要層を背景とした意匠の意図があったことである。例えば、鍋島様式のような将軍・大名家を主な需要者とする作品には、謡曲や詩歌を前提知識としなければ、意匠の深淵な意味がわからない、まるで絵解きを意図したかのような「国内向けの和様」が取り入れられている。また、柿右衛門様式のような欧州貴族を主な需要者とした輸出品には、土佐派の「鶉図」など視覚的に外国人にわかりやすい「国外向けの和様」が表現されている。和様はただ一概に取り入れられたのではなく、需要層を意識した結果それぞれに特徴が生まれ、各様式の意図により表現されていた蓋然性が指摘できる。さらには、絵解きした意匠の意味から、その陶磁品が使用されたであろう場の問題や、文化面での担い手として台頭する武家の歴史的展開も推察することが可能と考えられる。以上のように、本研究は、肥前陶磁の実態解明をする新たな研究として成果を期待できる。

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