― 35 ―⑦ 環浜名湖文化圏における仏教文化の基礎的研究―遠州地域に伝わる平安・鎌倉時代の仏像を中心に―物館はもとより、個人コレクション中の米山人、半江の作品を調査し、作品の撮影、落款印章、画賛の分析、表現の変遷の考察など、基礎的な作品研究を重ねる。また、所在不明の作品についても、明治大正期の売立目録、展覧会図録に掲載された図版を収集、整理する。なお、本調査研究の成果について、筆者の勤務する三重県立美術館において、企画展として公表することを念頭に置いている。米山人、半江の二人を顕彰する企画展は、1941年に大阪市立美術館で開催された「米山人並半江展」(大阪市立美術館)以来となる。研 究 者:浜松市美術館 学芸員 島 口 直 弥遠州地域には、浜松市の摩訶耶寺、袋井市の西楽寺等、湖西市の応賀寺等奈良時代開創の古刹が残る。「みほとけ展」では、摩訶耶寺の千手観音像(10世紀)、西楽寺の阿弥陀如来像(12世紀)、応賀寺の毘沙門天像(13世紀)等、遠州地域の古刹に伝わる平安・鎌倉時代の仏像を一堂に展示した。同展は、勤務館、ひいては遠州地域にとって初の本格的な仏像展で、仏像はすべて重要文化財や県指定文化財等の指定を受ける作例を集めた。その結果もあってか、28日間という短い会期で、新型コロナウイルスの影響が心配される中、2万3千人という、勤務館としては快挙的な動員数を記録した。同展を通して、遠州地域に古より伝わる優れた仏像の存在を多くの市民に周知できたものと考える。しかし、同展は、調査研究や展示の対象となった仏像20躯(東三河地域の仏像を含む)に関する個々の価値(歴史的・文化的意義、造形的な魅力等)を示すことはできたものの、その数は遠州地域の仏像全体の一部に過ぎず、遠州地域の仏像の全体的な傾向を捉えるには至らなかった。また、展示の性格上、遠州地域の西隣の東三河地域の寺院・仏像との関連性については言及したが、東隣の静岡県中部地域の仏像、静岡県外の他地域の仏像との比較が不十分だった。このことを踏まえ、遠州地域に伝わる仏像について改めて概観すると、指定文化財の優品以外にも、未調査あるいは最後の調査以来数十年以上再調査がなされない仏像
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