― 36 ―がかなり存在するように思われる。慶派仏師・運覚作の地蔵菩■像を本尊とする岩水寺には、平安時代後期の定朝様式を示す阿弥陀如来像や写実的且つ動的な衣文表現や慶派仏師に通じる面相部の表現が際立つ鎌倉時代の大日如来像があるが、共に未指定で旧浜北市の市史や文化財を紹介する書籍等に一切の紹介がない。応賀寺には、鎌倉時代作として湖西市指定文化財となっている四天王像があるが、その豊満で動静を抑えた体躯には平安時代後期の特色も残している。長福寺には、定朝様式を示す平安時代後期の阿弥陀如来像があるが、未指定で旧引佐町の町史等にも一切その記述は見られず、遠州地域の仏像の調査研究がいかに手つかずで、未開拓の状況であるかが伺える。本研究は、遠州地域に伝わる未調査の仏像の存在を見出し、再調査によりその価値を新たに見出す可能性を有する点に大きな意義があるものと考える。また、重要文化財、県指定文化財の仏像に関する情報に、こうした「しられざるみほとけ」の情報が追加されることで、遠州地域の仏像のデータベース化が促進されることも意義深い。さらに構築したデータベースを分析することで、遠州地域に伝わる仏像の傾向を掴むことも可能で、ひいては遠州地域の仏教文化圏の広がりの様相の考察につながるものと期待される。加えて本研究では、遠州地域の仏像と、遠州地域に隣接する東三河・静岡県中部地域の主要な仏像との比較を通して、遠州地域の仏像の傾向をより顕著に浮き彫りにしていく。さらに、浜名湖周辺地域に寺院や仏像が集積していることを踏まえ、湖を中心に仏教文化が栄える琵琶湖地域との比較を通して、浜名湖を中心とした遠州地域の仏教文化圏の広がりの様相について考察していく。本研究は、研究途上にある遠州地域の仏像の基礎的な研究を更新・前進させる好機である。「みほとけ展」来館者アンケートやSNS上の反応には、さらに多くの仏像の鑑賞を望む声、展覧会の続編を期待する声が多数あり、遠州地域の仏像への興味・関心、研究の機運は高まっている。本研究の成果は展示を通して市民に還元するとともに、多くの期待に応えるという点においても意義は大きい。
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