― 45 ―⑭ 両次大戦間フランスのモダニズム言説における美術コレクターの役割についてから画家に関する記述を紹介し、地方文人自身が教養豊かで近世文化の潮流を担う存在であることを示し、近世絵画の展開において彼らが果たした役割を考えたい。以上のように本研究は、「地方の受容者」を層として把握し、かつ具体的な姿を描き出す試みである。近世絵画は、地域的・階層的に多様な出自を持つ画家たちが登場することで、豊かな成果を得ている。彼らの活動を支え、時には重要な画家を輩出した地方の受容者層の存在は、近世絵画の展開を考える上で不可欠な要素であり、近世絵画史研究への貢献も大きいと考える。研 究 者:西南学院大学 国際文化学部 講師 柳 沢 史 明本研究は1920年代から30年代にかけてのフランス美術界におけるコレクターの蒐集品展示の実態とその美的趣味を分析することで、当時のモダニズム言説におけるコレクターの位置づけや彼らが担った社会的・能産的役割を解明することが目的である。両次大戦間に焦点を当てたのは、モダニズムの一つの流れであるプリミティヴィズムが絵画制作においては徐々に影を潜める一方で、室内装飾の分野ではブラック・デコをはじめ西洋的要素とのハイブリッドな調度品という形で注目を集め、J・ドゥーセなど様々なコレクターの関心をひいたのがこの時期だからである。さらに、美術雑誌の多様化とグラビア化が進み、室内装飾や邸宅を捉えた写真図版は視覚的にコレクターの趣味を読者へと伝えるとともに、コレクターら自身による評論執筆やインタビュー、コレクター論などが多数登場してきたのもこの時期に着目した要因である。じっさいフランスを中心とした同時代のコレクターの役割はS. Bracken&A. Turpin eds. ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(2020)やC. H. Force ed. ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■(2020)などの論集において改めて注目されている。2019年からケ・ブランリー美術館にて開催された「エレナ・ルビンスタイン――マダムズ・コレクション」展では美術コレクターであるルビンスタインが蒐集したアフリカやオセアニアの彫刻類の展示が行なわれるなど、20世紀前半に活動した蒐集家の美的趣味の再検討が活発化している。国内においても、2018年東京都庭園美術館で行なわれた「エキゾティック×モダン――アール・デコと異境への眼差し」展において、コレクターの室内装飾を彩るモダンな家具と漆や象■といったエキゾティックな素材との取り合わせを
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