― 46 ―⑮ 太田聴雨に関する基礎資料研究含んだ展示が行なわれ、モダニズム時代のコレクターの鋭敏な趣味とその実態は同時代の美術界の動向を明らかにする可能性を含むものして積極的に認識されている。本研究はこうした潮流に刺激を受けたものであるが、同時にこの時代のコレクターの活動に着目したのは、彼らの活動が公的美術館のコレクションの形成や美術館開設に向けての流れと密接に結びつくものだからである。1929年にパリで開催されたP・ギヨームのコレクション展は、一見すると富豪による蒐集品自慢の様相を呈しているが、じっさいは当時同時代美術を蒐集・所蔵していたリュクサンブール美術館友の会の支援を目的に行なわれ、私的コレクションの披瀝と同時代美術のための公的美術館の開設要望とが一体となっていた。かたや前衛的な芸術家との私的な交流とその中で培われる革新的な趣味を有する傾向のコレクターがおり、かたや限定的な予算をもとに保守的な美的趣味に基づくコレクション形成を目指す公的美術館があり、両者はともすれば対立関係にあるものとして見えるものの、より微細に調べていくならば両者の関係はニュアンスを含むものであり、その関係を再考することは、美術行政におけるモダニズム美術評価の変遷を解明するための新たな視座を提供するはずである。つまり、コレクターの同時代的役割をモダニズム言説と関連付けて分析を行うことで、上述してきた蒐集行為とその室内展示が有するモダニズム的性質および能産的側面を分析する基盤を形成するとともに、私的な展示領域が公的展示施設にもたらす政治的・文化的影響を検討するモダニズム美術受容史の一端を構築すると考えている。研 究 者:宮城県美術館 研究員 菅 野 仁 美本調査は、日本画家・太田聴雨の画業を繙くための基礎資料の収集を目的とする。聴雨の画業は、1981年の太田聴雨展開催時に「日記、手帖、関係者談などによるか、複数のデータから推定によっている」年譜が作成され、そこには市井展出品作の画題まで詳細がまとめられている。しかし院展、市井展などの展覧会出品の多くは所在が不明であり、同展開催に当たっての紙焼きの作品写真が残るも鮮明さに欠け、図録や画集の図版も多くはモノクロ掲載で、作品の詳らかな分析に向く資料ではない。画業を追うには、まず具体的な作品の図様を実作品や文献から確認し、展覧会出品作の画題との同定や推定年ごとの整理など、基準となる作品を得ていく基礎的な作業が必要
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