― 49 ―⑰ 典礼注解書における教会建築解釈 ―マンドのドゥランドゥスを中心に―絵師である。また、この当時の細川家は、先述のとおり6代藩主細川重賢による全国に先駆けた藩政改革が注目を浴び、松平定信による寛政の改革の参考になったと言われる。それとともに、博物図譜の貸し借りによる全国の大名との交流は、「文化外交」というべきものであったと考えられる。斉茲の時代における実景図を介した松平定信や諸大名との交流も、江戸城における単なる趣味のサークルではなく、「文化外交」としても捉えるべきであると想定している。そして、そのような場で披露された《領内名勝図巻》の作者である矢野良勝は重要な絵師であると言えよう。本研究が完成すれば、江戸時代の風景画史において、矢野良勝という特異な絵師の画業が明らかになるとともに、寛政期における松平定信と細川家、および諸大名における実景図を介した文化交流という視点においても重要な、発展性のある研究になると思われる。研 究 者:清泉女子大学 文学部 専任講師 坂 田 奈々絵本研究の目的本研究の目的としては「ドゥランドゥスの『聖務の理論』における教会建築解釈の解明とその思想史的文脈の明確化にある。この目的は、より大きな構想としての中世芸術解釈の基礎となる象徴理解の集成と分析の一部をなすものである。研究の意義本研究はキリスト教美術を宗教的文脈から捉え直すことで、より深い解釈を行なうための素地を提供する基礎研究の一つであると考える。そもそもテキストとイメージの間には距離があり、厳密に結びつけることの困難は近年指摘されてきた。しかしエミール=マールの「中世芸術は象徴的言語である」という指摘は今でも意義深いものである(Emile Mâle. ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■. Nouvelle édition, revue et corrigée, Paris, Colin, 1902, p.28)。中世芸術の主題や色彩の背景には聖書や宗教的伝統が存在する。それはつまり、提示されるイメージが同時代の神学や哲学、また自然観や人間観などと連関を持ち、その知識のもとで解釈されうることを示している。このことは写本画や彫刻だけでなく、教会建築にも当て
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