― 62 ―㉖ 地域美術研究―鉱工業都市・新居浜がもたらす日本近現代美術への影響関係について―研 究 者:新居浜市美術館 主任・学芸員 井 須 圭太郎本調査研究では、地域美術研究に主眼を置き、鉱工業都市として発展してきた新居浜の地理的風土がもたらした日本近現代美術史への影響関係について、次の3つの視点から考察し、明らかにすることを目的としている。① 住友と近代美術新居浜市は、1691(元禄4)年の別子銅山開坑以来、住友家による鉱山開発と明治以降の近代化に伴う住友企業各社による鉱山、化学、重機械、林業などの各種事業展開により、鉱工業都市としての繁栄を遂げてきた。本調査研究では第一の視点として、地方の都市形成の礎を築いた「住友」と近代美術の関わりに焦点を当てて研究をすすめる。住友家では「自利利他、公私一如」の精神のもと公益との調和を重んじ、浮利に走らず国家や社会のために企業が果たすべき役割を重視した。そのような中、第15代住友吉左衞門友純(号・春翠、1864■1926)は文化振興への思いを強く持ち、家業で成した財をもとに書画古美術の収集につとめ、1895年に兄の西園寺公望の勧めにより黒田清輝《朝妝》を購入した以降は、モネやコランといったフランス近代絵画の収集をはじめ、黒田、鹿子木孟郎、関西美術院など、作家や文化活動への積極的な支援を行った。一方で収集した西洋絵画が室内を彩り、「邸宅美術館」とも称された須磨別邸洋館の建設(1903年落成)、大阪図書館(現・大阪府立中之島図書館)の寄付(1904年開館)、アーツ・アンド・クラフツの影響を受けた室内装飾が施された日暮別邸の建設(1906年竣工)など、いずれも野口孫市の設計による西洋建築の建設をすすめ、社会における欧米の生活様式や文化の普及・実践につとめた。なお、春翠をはじめ子息の寛一、友成が収集した美術コレクションは、現在、泉屋博古館に収められ、広く一般に展示公開が行われている。ここでは、住友家にまつわる近代美術の諸動向を精査することから、その影響と文化発展に対する意識を捉えていきたい。また住友の企業活動にゆかりを持つ美術家たちの動向についても注目をしたい。父が鉱山技師として四阪島精錬所長をつとめ、幼・青年期を新居浜で過ごした中村研一(1895■1967)・琢二(1897■1988)兄弟や、初代住友総理人・広瀬宰平を縁戚にもつ北脇昇(1901■51)、父が住友金属鉱山に勤務していた新居浜出身のイラストレーター・
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