鹿島美術研究 年報第39号
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― 75 ―㉞ 19世紀中葉~20世紀初頭の彫刻にみる「他者」のイメージ―フランスにおける「民族誌学彫刻」の展開を中心に―写真を含む幕末・明治期の写真の総体に、浮世絵との共通性をみる目もある。江戸東京博物館が2015年に開催した「浮世絵から写真へ―視覚の文明開化―」展では、名所浮世絵の定番の「型」や、版本に収録された名所絵からの引用が、明治中期の写真絵葉書等に見出されている。以上をふまえ本研究では、横浜写真に内包される、古刹や景観などを撮影した「名所写真」をとりあげ、在来の視覚イメージや作成者による作風の違い等々の比較検討により、「名所写真」における伝統的図像や主題の質と変容を精査し、その日本的展開を明るみに出す。そのためにフェリーチェ・ベアトの写真をいま一度とりあげ、19世紀に西洋へ輸出された歌川広重(1797■1858)らによる名所浮世絵との、図像や主題の異同を分析する。また、ベアトに師事しネガ等を引き継いだ日下部金兵衛(1841■1934)の写真も比較対象とし、ベアトの写真との違いや共通点を明らかにする。西洋の風景写真と日本の名所浮世絵、双方からの影響を「名所写真」に確認することによって、幕末から明治中期に至る、いわゆる風景写真の日本化の系譜を明らかにし、■摩藩の作例を含め孤立した幕末期の写真およびその行為を、明治中期以降の連続的展開へと位置づけ、再評価する。研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程  諏訪園 真 子目的本研究は19世紀中葉以降に「民族誌学彫刻」と称された彫刻作品と同時代言説の分析とを通して、三次元表象における「他者」のイメージと作品の再評価を行い、19 世紀フランス美術史における「他者」の表象と彫刻を取り巻く諸問題を考察することを目的としている。意義及び価値「民族誌学彫刻」とは、当時新興の学問領域であった人類学や民族誌学という「科学的」知見を援用し制作された彫刻作品であり、コルディエ(Charles Cordier: 1827■1905)の《アフリカのヴィーナス■■■■■■■■■■■■■■■》(1851)に代表されるように、主に

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