― 76 ―非西洋の「他者」をその主題に据えている。「人種」や「民族」といった概念を具現化するこうしたイメージは、昨今のBLM運動をはじめとする現代社会の同時代的関心も相まって高い注目を集めるテーマである。フランス国内だけでも、近年ケ・ブランリ美術館(■■■■■■■■■■■■■■,パリ,2016■17年)やオルセー美術館(■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■,パリ,2019年)での展示が示すように、美術史の領域においても本主題の重要性は高まっており、「他者」のイメージの再考と分析は今後一層の検討を要する分野であると言える。また19世紀彫刻の再検討そのものも1980年代以降に本格化し、欧米圏で開催された大規模な展覧会(パリ,1986年;ロサンゼルス他巡回,1980■81年等)以降、彫刻研究は再評価が進められ、フランス彫刻に関する各種アーカイヴの整備や、プティ・パレ美術館の19世紀彫刻ギャラリーの改装など、2000年代以降意欲的な問題提起と分析が進められてきた。こうした動向に並行し、それまでの彫刻の概念をより新たな視点から検討すべく、19世紀の多様な三次元表象に関する展覧会が現在まで相次いで行われている。この潮流の中で、オルセー美術館にて開催された「民族誌学彫刻」展(パリ,1994年)を皮切りに、当該分野に関しても複数の論考が発表されている。このようにフランス19世紀彫刻および「民族誌学彫刻」はまさにいま再評価の途上にあると言える。しかし「民族誌学彫刻」は、西洋近代における「芸術」の規範のゆらぎや、「他者」の表象の受容と意義、科学と芸術の連関といった多様な側面を有しているにもかかわらず、オリエンタリスム絵画を中心とする絵画領域の豊富な研究蓄積に比べると、その検討は個別の作品研究に留まっており、未だ多くの作品や問題点が看過されている。こうした状況を踏まえ、科学の発展と軌を一にして要求された「民族誌学彫刻」が「芸術」そして「資料」として受容された過程を問い直すことで、植民地化を進めてゆく近代フランスが必要とした非西洋の「他者」の表象の在り方、そしてそのイメージの受容状況を明らかにする一助となり得ると考えられる。また、科学、芸術の両分野を繋ぐ領域横断的な「民族誌学彫刻」の役割を再検討することで、19世紀美術における芸術の多様化の一端を解明することが可能となるだろう。構想本研究では、1.19世紀中葉以降の「民族誌学彫刻」の位相:フランス国内外における展開と展示空間、2.「民族誌学彫刻」の実践とその限界:レアリスム的表現と理想化の問題という2つの観点に基づき、「民族誌学彫刻」の第一人者を自認してい
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