― 77 ―㉟ 北欧における染織文様の研究 ―フィンランドにおけるリュイユ織を中心に―たコルディエ、そして「他者」の表象に関する「科学的」な芸術理論の構築に携わった彫刻家のシャルル、ルイのロシェ兄弟(Charles Rochet: 1815■1900; Louis Rochet: 1813■78)の作品と言説、そしてその評価に分析の焦点を当て考察を試みる。パリ近郊に所在する作品の現地調査と文献資料の入手及び精査に重きを置きつつ、フランス地方都市、ヨーロッパ、北米に位置する資料館及び美術館、博物館が所有する作品及び周辺資料の検討を予定している。作品とその展示空間、「他者」の表象にまつわる芸術理論の展開と同時代批評の考察といった多角的側面からのアプローチを通して、「民族誌学彫刻」の意義とその可能性を追及することで、美術史研究における「他者」の表象および彫刻の位相に関して新たな視座を提示しうると考えられる。研 究 者:京都国立近代美術館 任期付研究員 宮 川 智 美本研究の目的は、フィンランドのリュイユ織(Ryijy)を中心に、伝統的な染織文様がいかに現代的な表現として展開してきたのかを明らかにすることである。その際、フィンランドで最も充実したリュイユのコレクションとして知られる、トゥオマス・ソパネン・コレクション(TUOMAS SOPANEN COLLECTION)を具体的な研究対象とする。これまで日本においてリュイユは、フィンランド及び北欧の美術を紹介する展覧会の一部で言及されることはあったが、リュイユそのものの歴史的背景や文様の変遷、1940年代以降の作家作品が多数紹介される機会はなかった。概要を知ることのできる日本語による参考文献もほとんどないのが実情である。こうした現状を踏まえ、本研究ではまず実物の資料に基づき、リュイユの基礎的な情報を正確に記述することが求められる。ソパネン・コレクションは、18世紀から現代までのリュイユの歴史を通観することのできる600点近い作品を所蔵する。今回は、ソパネン氏の協力を得て、それらの作品を実際に調査できる貴重な機会となる。また、申請者は2019年に大阪市立東洋陶磁美術館で開催された「フィンランド陶芸 芸術家たちのユートピア」展を担当した際、ヘルシンキでの調査をおこなっている。その際、日本で紹介されるフィンランドのデザイン及びその作家に対する認識と、現
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