■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に関する■■■調査研 究 者:日本学術振興会 特別研究員PD(京都大学) 打 本 和 音本研究の主たる目的は、マトゥラーにおいて弥勒が「どのように」、「どの程度」、受容されていたのかを明らかにすることにある。その際、マトゥラーという「場」の特異性にも十分目配りをしつつ、作業を進める。当地は仏典に登場するだけでなく、『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』といった叙事詩にもその名がみえ、クリシュナ神の生誕地として現在も多くの巡礼者が訪れる。ジャイナ教とも関りが深く、伝統的なヤクシャ信仰やナーガ信仰の存在も指摘されるなど、外交的要衝であるのみならず、宗教的・文化的に複雑な場でもある。当地における弥勒の造像を確認しても、ガンダーラの作例とアトリビュートなどに共通する点がみられる一方、頭髪処理などに特異な表現も見られ、他宗教との影響関係も想定される。従来、マトゥラーの弥勒像にみられる特異性については、マトゥラー派彫刻全体の特徴として理解されてきた傾向にあるが、これまで顧みられてこなかった断片も含めて網羅的に蒐集・整理を行い、再検討する必要がある。意義:本研究での■となるマトゥラーは、重層的な宗教文化の地であるとともに、地理的にも重要な場所にあたる。タキシラやバルフへと続くいわゆる北路Uttarapatha、アジャンター石窟などを擁するデカン高原方面へ向かう南路Daksinapatha、そしてヤムナー川の水路が交差する要衝であり、一大通商都市として栄えた。この地から発信される情報の影響力を鑑みたとき、当地における弥勒受容の様相を明らかにすることは、同時代、そしてその後の時代における弥勒をめぐる情報の伝播の様相、ならびに弥勒受容の地域的展開を検討するうえで意義深い。クシャーン朝期のマトゥラー周辺域における弥勒を対象とする研究は管見の限り仏教学の方面には見当たらず、当地で出土した優品の弥勒像に言及する美術史学の成果、ならびに、弥勒像に付された銘文を扱う碑文学の成果がある。かかる先行研究を踏まえつつ、従来網羅的な蒐集に基づく分析がおこなわれていない初期の中インドにおける弥勒信仰の状況を、考古美術資料と文献資料の批判的検討を経て導き出すことを目指す。価値:― 90 ―
元のページ ../index.html#103