鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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えられた調度品の一つであったことが指摘されている。オランダ製のアルバレッロ(軟膏薬を入れる筒形容器)を範とした胴側面に把手を設けた花活で、胴の天地には花卉文を、中央には異国風景を配する。台も同様に器体を花卉唐草文で埋め尽くし、天板に設けた方形の窓枠内に異国風景を描いている。3点目は、収納箱に天保14年(1843)に光格天皇の典侍を勤めた勧修寺婧子(1780■1843)より京都の両替商神田信久(?■1862)に下賜されたと記される「藍絵異国風景図台付大鉢」(個人蔵)である。見込の中央に設けられた円形窓枠内には、西洋風の石造建物が並ぶ異国風景がみえる。その周囲には複数の小さな円形枠を設けて、その内側に雨龍、獅子、牡丹などの中国趣味的図様が描き込まれている。つまり、西洋、東洋の図様が混在した意匠となっているのである。文化13年から天保13年までのおよそ30年の期間で、めまぐるしく意匠の変遷があったことが想定される。合わせて、異国風景図、異国人物図にみられる洋風表現(透視図法、陰影表現など)の理解についても考察を行う。先述のとおり、京阿蘭陀には典拠とした図様が考えられるものの、明らかな写し崩れや銅版画にみられるハッチングや遠近法の理解に欠ける描写がみられる点も特徴の一つといえる。これらの描写を具に整理することは、京阿蘭陀作品の製作時期、製作地などを分類するうえで有益と考えられる。さらに、典拠となった銅版転写のプリントウェアや銅版画などの図様を解明することができれば、需要層や製作背景などもみえてくる可能性もあろう。加えて、京阿蘭陀には「粟田」「いが」などの製作地、「道八」「乾斎」「楽忠」などの陶工を示す銘を有する作例も存在する。これらは京阿蘭陀の製作時期、製作地を絞っていく作業の上で貴重な情報となる。銘ごとにその意匠の特徴を整理することで、陶工や工房などの特徴を見出せるかもしれない。加えて、神戸市立博物館所蔵品を主に蛍光X線調査を依頼、実施することで、科学的側面から製作地の特定につながる情報が得られると考えている。上記のことが明らかになったとき、京阿蘭陀の位置づけを再考するとともに、将軍家、公家などをはじめとする需要層や宴席などでの交流の場を演出する京阿蘭陀の姿が明らかになるといえよう。限られた情報の中で形成された近世異国趣味の美術品を考える上で、京阿蘭陀の作品群が重要な位置を占めていることを提示できると考える。― 92 ―

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