■ ■■■■■■■研究 ■■■■■■■■■■■て2021年に行われた展覧会「亀井家に伝わった異国のかけら」にて紹介された新出資料であり、これからの調査研究が期待される作品である。さらに、既知の作品ではあるものの、特筆すべき資料に鳥取県の譲伝寺所蔵の粤繍裂がある。譲伝寺は亀井茲矩の菩提寺であり、この粤繍裂は茲矩が奉納したものと伝えられる。永明寺の粤繍裂も亀井茲矩ゆかりの染織品として伝わるものであり、茲矩ゆかりの2寺に、同様の染織品が伝わることから、いずれの伝承も信憑性が高いものと考えられる。茲矩ゆかりの刺繍作品は、これまで議論の■上に上がってこなかったチャンパが、交易ルートの一つであった可能性可能性をはらむものである。[注1]吉田雅子『海のシルクロードの染織史』中央公論美術出版/2017 ■新出資料に期待される新知見②日本に伝世したと伝わる奈良の個人蔵の刺繍裂に、海南島にて制作されたと考えられる新出作品が2点ある。この刺繍裂は、粤繍とは文様の密度や精度、素材が異なるものの、文様の構成や「渡し繍い」の刺繍技法などは共通する。このため、粤と海南島との間に技術やモチーフの文化交流があったことが推測される。海南島刺繍裂にも「色替り」表現が見られることから、「色替り」は中国特有の表現ではなく広く輸出用作品に用いられた表現技法であったことが推測される。また、16世紀から19世紀にかけて、海南島はベトナムとの海上貿易を積極的に行っていたことから、この海南島刺繍裂と永明寺の粤繍裂の両方の新出資料の存在により、日本とチャンパと海南島と粤をつなぐルートが解明される可能性がある。研 究 者:ポーラ美術館 学芸員 工 藤 弘 二ニューヨーク近代美術館において「キュビズムと抽象芸術」展が開催されたのは、1936年3月2日から4月19日にかけてのことである。前衛美術のひとつの分水嶺として広く知られたこの展覧会は、同館の初代館長であるアルフレッド・バーの企画によるものであり、その際に図録に付されたモダン・アートの歴史的進化を示したチャートに見られるように、この頃にはすでにセザンヌはキュビズムのひとつの起源としての歴史的な地位を確立していた。他方、同年にパリではセザンヌにまつわる記念碑的― 97 ―
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