鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■■■画■■■画に■■■る■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■に■【本研究の価値】第一に、日本のエッセイ映画を題材に視覚文化と主体性の関係を考察する本プロジェクトのような研究はこれまで皆無だった。その意味で本研究は、メディアアート研究だけはなく、より広く文化研究・そして主体性をめぐる哲学的・概念的探求の領域にも貢献する。第二に、エッセイ映画の分析を通して、戦後日本の主体性に関わる議論、視覚性と主観性の関係といった様々な事柄が複雑に関係し合うあり方を明らかにする方法は、人文学におけるひとつの学際的なアプローチのモデルになると言える。第三に、本研究は研究対象をエッセイ映画という映像媒体に特化しているが、他の媒体(写真、絵画など)における一人称的な表現(セルフポートレート等)の研究へも大きなインパクトを与えると考える。【本研究の構想】本研究は、筆者が博士候補生として所属する南カリフォルニア大学で執筆中である博士論文、Embodying Subjectivity: Essayism and Documentary in Postwar Japan(仮題)の序章、第一章に関わる内容として構想している。博士論文では、70年代から2000年代のエッセイ映画を特徴づける主観性・自己言及性の関わりを研究する計画を立てているが、エッセイ映画という表現モードが日本で登場し興隆する70年代に焦点を当てる本研究は、博士論文研究の基盤を構成する重要な要素となると考えられる。研 究 者:宇都宮美術館 学芸員  黒 木 彩 香本研究は、日本の明治期の初期洋画における「風景画」とはどのようなもので、西洋的な風景画とはいかに相違していたのかを、近世の名所絵からのモチーフや構図の継承の有無に視点を置いて明らかにするものである。(意義・価値)先行研究において日本の初期洋画の「風景画」は画家または作品毎に分析されることが多く、その全容を十分に検討してきたとは言い難い。これを受けて本研究では近代洋画の風景画について画家ごとの垣根を越えた広範な調査を行い、描かれた場所やモチーフについて名所絵的な要素について検討する。その上で、同じ場所をとらえた― 100 ―

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