同分野の近年の研究動向は、2000年にオリヴィエ・ボンフェら17世紀美術研究者らによって企画された「隠れた神」展(Cat. expo., Le Dieu caché, les peintres du Grand Siècle et la vision de Dieu, Rome, Académie de France à Rome : cat. par Olivier Bonfait, etc., 2000.)や2012年のギヨーム・カゼローニらによる「天空の色彩、17世紀のパリの聖堂の絵画」展(Cat. expo., Les couleurs du ciel, peintures des églises de Paris au XVIIe siècle, Paris, Musée Carnavalet : cat. par Guillaume Kazerouni etc., 2012.)などの展覧会によって、カトリック改革以降の宗教美術の聖性の表象に再び注目が集まっている傾向にある。しかし、17世紀前半のこの時期は、美術アカデミーの隆盛によって美術の中心地がローマからパリへと移り変わる基盤を成した時期であることに、再度目を向けてみたい。この時期のフランス美術の発展についての分析をより進めるためには、ルイ13世の治世下の美術を主導したシモン・ヴーエに着目する必要があり、彼が最も注力した公共装飾に注目することで具体的な発展の道筋を提示することが可能となるだろう。本国フランスにおいてシモン・ヴーエ研究は今後研究が大いに進められることが期待される分野である。今秋にはストラスブール美術館の学芸員であるドミニク・ジャコ氏による単著と、歴史家のアラン・メロらによる新しいカタログ・レゾネが出版される予定であり、ヴーエ研究は今後さらに加速するだろう。本研究は、ヴーエ研究ならびに聖堂装飾研究として、国際的水準においてその一端を担うことを目指すものである。■構想筆者は修士論文においてヴーエの代表作の一つである《キリストの神殿奉献》(1640年、ルーヴル美術館所蔵)についての図像学的考察をおこなった(論文①)。ヴーエはこれまで、フェリビアンが批評しているように、学識ある画家であるニコラ・プッサン(Nicolas Poussin, 1594■1665)と比較して、無知な画家であるとみなされてきたという背景がある。プッサンが書物を参照し複雑な寓意を画面に描きこむことで知的階級の顧客を満足させてきた一方で、ヴーエの作品においてはその例が知られていなかったことがその要因であると考えた。しかし、作品を詳細に観察してみると、画中に16世紀にリヨンで刊行された挿絵入り聖書に描かれた図像と共通するモチーフを確認することができた。その経験から、これまで研究者たちの関心が向けられてこなかった分野であったが、ヴーエの作品において図像学的考察が可能であることが明らか― 103 ―
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