鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■美術■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■334万円本年度の東京美術講演会は高階秀爾大原美術館館長の総合司会により以下のとおりより先進的な多視点性を実現していた。ミケランジェロの作品をジャンボローニャへと受け継がれる先進的な着想を実現したミケランジェロだが、まさに「視点」という観点から新たに考察を加えることにより、この時代に彼の発想を飛躍させる契機となった作品が見出される。それは《ダヴィデ》の対作品プロジェクトの過程で生み出されたと考えられるテラコッタの《ヘラクレスとカクス》と、その前段階を示す《ヘラクレスとアンタイオス》の素描である。これまで《ヘラクレスとカクス》は「多視点性」という観点から考察されることはなかったが、設置予定だったパラッツォ・ヴェッキオの南西角の場所性を考慮すると、その位置の彫像を目にする鑑賞者の視線の方向を意識した造形であるということが明白となる。《ヘラクレスとアンタイオス》の素描を見ると、ミケランジェロがこの時点で設置場所を考慮していたことがわかる。3方向の視線に向けて意識的に造形モチーフを配置した構成は、実際の大理石の形状に合わせて《ヘラクレスとカクス》として翻案されたのである。そしてこうした視線に対応する造形を可能としている要素こそが、ミケランジェロの代名詞といえる肉体のねじれであった。この時代のミケランジェロ作品の肉体のねじれは、芸術家の内面との関わりで論じられるのがほとんどである。他方、身体のねじれが実際の作品においてどのような効果をもたらしているかという点については具体的に吟味されてきたとはいいがたい。すなわち、このねじれを造形的関心と結びつけて分析することを可能とする視座こそが「視点」なのであり、それにより、視点の創出がミケランジェロの着想の中でどれほど重要な位置を占めているかが理解できるのである。実施された。日   時:2022年10月13日 午後2時〜5時30分会   場:鹿島建設KIビル 大会議室出 席 者:約260名(オンライン視聴含む)総合テーマ 『都市と美術』      総合司会 大原美術館館長          高 階 秀 爾― 25 ―

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