鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■■■■活動 ■■業美術■版画■■■■■■■■る■は十分に想定できよう。以上に確認したように、当地域特有の図像と思われる聖徳太子関連の絵画が制作された背景には、親鸞が稲田(笠間市)を中心に教えを弘め、忍性が筑波山周辺で活動していたという、中世の常陸における各宗派の思想や動向と密接に結びついていたことが想定される。本研究では、上記の2種の作例を中心にして、なぜその図像が成立し、あるいは選択され、いかなる背景をもとに絵画が描かれたのかという問題について、蓄積された太子信仰に関する研究を踏まえつつ、個々の事例に則して検討していく。この作業により、真宗立教開宗の地とも称される■城における太子信仰の受容に関する一端を明らかにし得るのみならず、当地域の真宗門徒の思想的展開、真宗と律宗の交錯等、隣接諸学に資することができると考えられる。研 究 者:大阪中之島美術館 学芸員  清 原 佐知子筆者の所属する大阪中之島美術館は、近代・現代の美術とデザインを専門とする美術館として、作品や資料を収集・公開し、その研究に努めている。大阪に建つ美術館として、この地の作家の顕彰や美術史の掘り起こしによって地域文化に資することを大きな責務とし、地域に根差した研究の成果を、大阪独自の新しい視点で広く国内外に発信している。本研究は同館のこうしたヴィジョンに則ったものであり、近代・現代の大阪の芸術文化を支えた重要な芸術家の一人である前田藤四郎の功績を目に見える形で広く伝えることで、大阪に住み、勤め、学び、訪れる人々に対して、この地の文化への理解や誇りを促すことを、まず大きな目的とする。近代・現代の大阪の美術における、他にはない大きな特色の一つは、「商都」と呼ばれる大阪の、まさにその商工業との結びつきの深さであり、またその結びつきの上に、他地域にも比して先進的なモダンアートが独特の形で花開いたことである。前田藤四郎はこの特色をとくに顕著に体現する美術家の一人であり、前田における美術と商工業の結びつきの実像に深く迫ることも、本研究の重要な目的である。2022年に大阪中之島美術館で開館記念展として開催し、筆者も企画・実施に携わった「みんなのまち 大阪の肖像」展の第1期(「都市」への道標。明治・大正・昭和― 33 ―

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