戦前|4月9日〜7月3日開催)は、明治から昭和戦前期までの大阪をテーマにしたものだが、この展覧会では当時の大阪における美術と商工業の結びつきにも大きく光を当て、百貨店、鉄道、出版業、製薬業など様々な分野にわたり豊富な事例を紹介した。ここで前田はとりわけ重要な位置を占めており、百貨店を題材とした版画作品《デパート装飾》(1930年代作)や、商業印刷における写真製版術である銅板凸版をリノリウム版画と組み合わせた作品《ラグビー》(1936年作)などが、同館コレクションより出品された。また、大阪が主要な創業の地である製薬業と芸術のつながりを示す例として、前田が昭和初期に株式会社塩野義商店(現・塩野義製薬株式会社)のために手掛けた広告物が展示された。これらの作品・資料は、その先進性や独自性が関西域外の観覧者にも強くアピールした。しかしこれらは、前田における美術と商工業とのつながりのほんの一例に過ぎない。本研究にて、所蔵資料の徹底的な整理・調査や、企業などを対象とした館外での調査を行うことによって、前田と大阪の商工業とのつながりの強さを、より明確な形で示せればと考える。本研究が機となり、大阪の美術家の一人である前田への関心が高まれば、そして何より、大阪に縁のある人々にその存在が広く知られ、身近に感じていただければ幸いである。本研究は、将来の開催を構想している、大阪中之島美術館での前田の個展を射程に入れたものでもある。前田の大規模な個展は、同館が準備室時代の2006年に開催した「生誕100年記念 前田藤四郎展 ―“版”に刻まれた昭和モダニズム―」を最後に開かれていない。大阪を代表する版画家であり、大阪中之島美術館のコレクションの柱の一つでもある前田藤四郎は、大阪に建つ同館として末永く顕彰すべき作家である。最後の個展から既に20年近くが経過した現在、さらなる顕彰の機会が急がれる。2006年の個展では前田の版画作品の展示が主であり、商業美術の仕事は断片的に紹介するにとどまったが、将来の個展ではそれを上回る規模のものとして、商業美術にも重点を置き、より豊かな作家像を提示できればと考える。― 3 ―
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