鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
56/138

■ ■■■■画■■■■調査研究 ■■■に■■る■■■■■■など多くの文化人が活躍していた。そして、庭園の造営や、地誌編纂など、大規模な事業が相次いで行われてきた。本作のような、藩主の主導による大規模な実景図制作も、これらの一つに含められよう。本作の分析を通じて、その制作背景および過程の詳細が判明することで、掛川藩による広範な文化政策の一端を明らかにできる可能性がある。研 究 者:吹田市立博物館 学芸員  河 島 明 子本調査研究の意義は、旧家のコレクションに着目する点にある。大坂画壇に関する旧家コレクションの調査は、主に在地の美術館・博物館が担うことが多く、先行例も多い。市町村史の編纂に際して行われることもある。しかしながら、旧家の件数からすれば十分に行えているとは言えない。コレクションを受け継ぐ旧家の協力が得られてはじめて調査を行うことができるという実情もあるため、件数を増やすことは決して容易ではない。また、件数のみならず、個々の重要な作品について研究の精度を高めていくことは言うまでもなく不可欠である。旧家コレクションの調査は、画人の生涯や画風の変遷に位置づけていくような一般的な作家作品研究に加えて、作品の来歴、すなわち旧家の主人がその作品を受容した経緯が史料などの発見によって明らかにできるケースがあり、より一歩踏み込んだ研究ができるという利点がある。家や主人と画人を結ぶ関係性が新たに明らかとなる可能性もある。また、大坂画壇の中心地、すなわち大坂三郷よりも、本調査研究で言及する周縁地域のほうが地理的に離れているため、作品の入手は比較的容易ではなかったと考えて良いだろう。その考えに基づき、さらに旧家に受容され受け継がれてきた背景に主人の審美眼が大いに働いていることを踏まえれば、周縁地域の旧家コレクションは、その審美眼がより一段と凝縮されているものと言えないだろうか。旧家の審美眼が凝縮されたコレクション調査が進み、同じエリアに所在する個々の旧家コレクションの情報を集めることができれば、コレクションに占める作品や流派などの比較を通して、旧家ごとの傾向について論理的に言及することができる。やがて京阪神内のエリアごとの比較ができるほど調査研究を積み重なっていけば、作品の伝播の範囲が推定できるなど、新しい発見につながる見込みもある。―  3 ―

元のページ  ../index.html#56

このブックを見る