鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■■■■■■研究 ■■1■■■■■2■■■■■研 究 者:千葉商科大学 非常勤講師  坂 田 道 生本研究の意義は以下の4点にあると考える。第一の意義は、これまで包括的な検討がなされてこなかった両記念柱浮彫りと《アクティウムの海戦浮彫り》に見られる古代ローマ軍艦図像についてカタログを作成し、基礎資料を作成することにある。第二の意義は、古代ローマ美術の作例の中でも軍艦図像が見られる主要な三作例について包括的な検討を行うことにある。三作例についての主な先行研究としては次の著書が挙げられる。《アクティウムの海戦浮彫り》についてはLa Rocca, E.et al., Augusto: Catalogo della Mostra, Roma, 2013が、トラヤヌスの記念柱及びマルクス・アウレリウスの記念柱浮彫りについては、それぞれCoarelli, F., The Column of Trajan, translated by Rockwell, C., Rome, 2000とCoarelli, F., The Column of Marcus Aurelius, translated by Patterson, H., Rome, 2008が挙げられる。これらでは、ローマの軍艦図像を含んだ個々の場面のディスクリプションが記されているに過ぎず、全体的な検討は見られない。後1世紀から後2世紀までの軍艦図像群を包括的に考察対象することで、古代ローマ美術史における軍艦図像の変遷、三つの作例における軍艦表現の特徴に関する考察が得られる。第三の意義は、文献及び考古学資料の欠如のために、詳細が不明な古代ローマ海軍とその軍艦について、図像資料に基づいて検討を行い、その実態に関する手掛かりが得られることである。例えば、トラヤヌスの記念柱には、皇帝トラヤヌスが軍艦と共に表現される場面が三つ見られる。場面33では上艦しようとするトラヤヌスが、場面34■35では軍艦において自ら舵を操作するトラヤヌスが、場面46では下艦したトラヤヌスが表現される。それら場面に見られる軍艦図像を検討することで、皇帝のための特別な船舶は存在したのかどうかについて検討することが可能となるだろう。第四の意義は、資料の欠如のために、近年研究があまり進展していない歴史学、文献学、考古学などの周辺諸分野に対して、図像研究による考察は新たな視点を提供し、ローマ海軍及び軍艦に関する研究をさらに推進することである。筆者は作例に見られる軍艦図像ついてすでに予備調査を行っており、調査対象とする作例の範囲について明示しておきたい。《アクティウムの海戦浮彫り》は一連の長大な作例であったとされ、その一部にあたる11個の浮彫りが16世紀にローマで発見さ―  9 ―

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