ではスペインの印象派と紹介され、2005年長崎県立美術館展覧会カタログ(「よみがえる須磨コレクション―スペイン美術の500年」)の作家解説では「19世紀末から20世紀初頭にかけてスペインの外光派を代表する画家」(川瀬佑介、p.298)と紹介されている。また、2013年『ローマ:外国人芸術家たちの都』では「スペインでは国民的画家として知られているが、印象派以降フランスを中心に展開した近現代美術史の様々なイズムに与しなかった」(川瀬佑介、p.264)と画家について記されている。日本においてソローリャを知る者は少なく、まとまった研究も進んでいない。前述したように印象派、外光派、イズムに与しない画家と様々に解釈されるソローリャだが、画家は国際的な評価を得るために、主題の選択に当たっては当時のフランスにおける芸術的傾向を強く意識していたことは確かなことである。その中で、ソローリャが日本の版画、スリモノ帖と画譜を所蔵していたことも日本ではほとんど知られていない。日本美術史家ロジャー・キーズによればスリモノ帖にあるほとんどのスリモノは1890年代の復刻版(再版)と評価されるが、それらは当時の日本趣味の中で美術商から購入したものと思われる。幸野楳例による画譜は陶器の絵付けの絵手本として作成されたものだが、スペインに渡っていることは日本でも知られていない。本論では文物の流れを追うことを考察目的にはしていないが触れることにはなるだろう。本論の目的は日本のスリモノや画譜とスペインの画家の影響関係を調べることにあり、影響があったのかなかったのかを明らかにする日本では初めての考察といえるだろう。また、写真については、ソローリャは作品制作の際に写真を多用する画家として知られているが、多用するあまりに批判されることもある。画家が画学生時代に写真スタジオで働いていたことはその大きな要因の一つであることは確かだと思われる。その実態を明らかにすることによって写真が画家の作品に及ぼした影響も明らかになるだろう。近年、ヨーロッパではソローリャについて研究が進み、2019年のナショナルギャラリーにおける展覧会などで注目を浴びている一方で、日本での研究は少ないが、本稿がその一助になることは間違いないだろう。何より、スペインの画家ソローリャが所蔵する日本の版画、スリモノや画譜の調査は初めての試みであり、さらに進めて版画と写真という二つの視点から作品との影響関係を検証することには大きな意義がある。― 5 ―
元のページ ../index.html#67