鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■ ■■出■■■■■■■■■■■■■■に■博物館)のそれと近く、また巻七扇十七「雀落とし図」に見られる竹の節の部分が接続せず幹の間に不自然な空間を生むさまは、「青磁象嵌樹下遊禽文瓢形水注」(韓国国立中央博物館)と類似する。このことから、本作品は主に動植物を画題とした高麗の青磁との関係から制作の様相を推測できると考えられる。よって中国絵画だけではなく高麗の工芸品にも視野を広げて実見し、加えて現存しない作品についてもその詳細が記された史料を精査する。以上の調査により導き出した結果は、東アジアの文物の具体的な流通場所や貴族による受容の様相と照らし合わせることにより、本作品の制作背景を導き出す重要な要素となるだろう。研 究 者:大正大学 文学部 専任講師  大 島 幸 代陸信忠作品としては、仏涅槃図1件、地蔵・十王図16件、羅漢図3件の20件が、これまで研究の俎上に上げられてきた。香雪本「阿弥陀三尊像」は、新たな陸信忠作品、しかも従来知られていなかった主題作品の発見であり、陸信忠という仏画師の画業の全貌に再考を促すものである。本研究を通して、陸信忠各作品の立ち位置を示す全体地図が描けるようになり、香雪本「阿弥陀三尊像」がその地図上で中心に近い所、すなわち陸信忠本人によって制作された可能性が高いことを論証しうると考えている。それを踏まえて、香雪本の視覚表象にみられる特色――特に阿弥陀の説法印や三尊が坐る宝座と涌雲との関係性――が、南宋期の天台浄土教における観想念仏を反映した作品群と同一の地平上にあることを明らかにできるように思われる。井手誠之輔氏による奈良博本「仏涅槃図」の研究において、沙羅双樹が描かれるはずのところ、極楽浄土のモチーフである七重行樹が表され、涅槃の場面に極楽往生という再生の論理が重ねられているとの見解が示され、制作背景に延慶寺との関係が示唆されている。『観無量寿経』の十六観は、西方浄土にいる阿弥陀三尊を観想する方法を説くものであり、延慶寺はこの十六観に基づく十六観堂を中国で初めて造営し、寧波の檀越や信者の深い信仰を集めていた。宋代の原本を日本で写したと考えられている奈良・阿弥陀寺や長香寺の「観経十六観変相図」は、その信仰と深く関わる作品であるが、浄土の阿弥陀三尊を観想する第九・十・十一観図と、往生者を迎える宝殿内の阿弥陀三尊像が香雪本の図様と通じ、香雪本の図様が十六観と強い結びつきを持― 6  ―

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