鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■に■る■交■■■■画に関する■■■調査研究研 究 者:東京大学大学院 人文社会系研究科 博士後期課程  ■   美 娟江戸幕府が御用絵師に描かせて外国に贈った絵画は、二つのグループに分けることができる。まずひとつは朝鮮通信使に託して朝鮮国王に贈呈した金屏風である。幕府は毎回二十双と決まった数の金屏風を朝鮮に贈り、その総数は二百双にものぼった。しかし韓国国立古宮博物館に所蔵されているわずか三隻の金屏風以外には、近年までその他の現存作例が確認されてこなかった。筆者は2017年に韓国国立中央博物館の収蔵庫で保管されていた贈朝屏風三隻を新たに発見し、美術史学会全国大会にて報告した。その結果、現在まで確認された贈朝屏風は合わせて六隻になった。また、早稲田大学図書館など日本国内の機関には贈朝屏風の下絵がいくつか知られているが、注目すべきものは2021年に鹿児島・黎明館の企画展で初めて公開された1811年度の贈朝屏風の下絵十点である。これは初公開の資料で、記録のみしか残されていなかった1811年度贈朝屏風の図様を知らせてくれる貴重な資料である。このように新発見された資料を含め、贈朝屏風の図様と画題の分析が次なる課題である。もうひとつのグループは、幕末開港以後、欧米の各国に外交用贈答品として贈られた絵画である。このグループには、万国博覧会に出品するために幕府が制作させた絵画も含まれる。外交用贈答品としては、現在オランダ・ライデン国立民族学博物館所蔵のオランダ国王に贈呈した贈蘭屏風十双が代表的である。万国博覧会に出品された物としては、バウアー・コレクション所蔵の「竜田図屏風」がある。幕府はイギリスやフランス、アメリカにも屏風や掛軸を送っているため、今後の調査次第では関連作品が一層発見される可能性は十分にあると言える。このような状況を踏まえて、まず新たに発見された贈朝屏風に関する日本国内の資料の調査を行って18〜19世紀、江戸幕府が外交用贈答品として作らせた絵画の画題と図様、そして絵師の分析を行う。特に、外国に贈る画題として幕府が選んだやまと絵のテーマに注目したい。これは狩野派のやまと絵制作やテーマの研究にも繋がると考える。そして19世紀中頃に幕府が欧米に贈った絵画と比較すれば、朝鮮に贈った金屏風の特徴がさらに見えてくると考える。江戸幕府が公的に外国に贈った絵画には、今まであまり注目されてこなかった狩野― 69 ―

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