鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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淡くするときには必ず用い、明部を表現する際にも、モデリングにも用いられる白がどのように使われているのかを見ることは、特に重要である。その際に、どの白が用いられているのかについても関心を持たれてきた。また、保存修復の観点からも、厚塗りをすると亀裂を起こしやすく、乾燥が遅いとされるジンクホワイトについては研究されることが多かったといえる。だが、これらの調査作品からチタニウムホワイトが検出されることはまずなかったと記憶している。それゆえ、鉛白やジンクホワイトほどの関心を持たれることがなかったといえよう。チタニウムホワイトは鉛白やジンクホワイトをはるかに上回る抜群の不透明度(白さ)を持っている。また、鉛白とは異なり人体にも有害ではないとされており、今や最強の白と言ってよいと思われる。ジンクホワイトが不透明度に劣り、さらに厚く塗ると亀裂を起こしやすいために期待された鉛白の代替物とはなりえなかったのに対し、チタニウムホワイトはその役割を担っているといえるにもかかわらず、鉛白が使えないならばしかたなく、ということで使用される割合が増えているようにみえる。その理由の一つは、現在においても油絵具の白としては白度が強すぎ、他の色と混色した場合には、どの色もパステルのような粉っぽい色味になってしまうことや、可塑性に劣ることなどから、油絵具の白として理想的な塗膜を形成する鉛白ほどの魅力に乏しいことにあると思われる。筆者は所属する東京藝術大学大学院保存修復油画研究室にて、15年間、外部から依頼のあった作品の調査を行っている。これらの作品は、明治後期から昭和50年代までの作品が多く、明治、大正時代の東京美術学校関係者の作品であっても、大学を離れた後の作品が多い。作品の調査には肉眼観察、X線、赤外線、紫外線蛍光写真による光学調査に加えて、キャンバス塗料の分析や絵具の分析も行っている。すると、これまで研究室で調査した大学美術館所蔵の作品には見られなかったチタニウムホワイトを検出することがある。海外の絵具の研究書ではチタニウムホワイトは1920年以前の作品には使用されていないとある。筆者もその記述を念頭において分析を行っているのであるが、日本の油絵を調査した実感としては、日本人の画家がチタニウムホワイトを使い始めるのは、― 8  ―

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